劇場公開日 1968年1月3日

「新東宝の1955年の「人間魚雷回天」より、創作の割合は低めながら、感情に訴えようとする演出は多めになっています」人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5新東宝の1955年の「人間魚雷回天」より、創作の割合は低めながら、感情に訴えようとする演出は多めになっています

2025年8月30日
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鑑賞方法:VOD

人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊
1968年1月3日公開

東映の60年代戦争映画三部作の第2作です
第1作の「あゝ同期の桜」が大ヒットしたので、次作をというのは当然の流れかと思います
前作は東映社内でも危ぶむ声が多く、公開日が6月3日と年間で客入りが一番低調な時期に設定されていましたが、本作は正月第二弾となり、期待されていることがうかがえます
前作では、特攻隊といえば誰もが思い浮かべる航空隊の物語でしたが、実は特攻隊には、もう一つあり、魚雷そのものに人間を乗せて敵の軍艦に命中させようとした特攻隊もありました
本作は、その人間魚雷「回天」特攻隊を描いた物語です
魚雷となりいうのは、電信柱位の大きさの金属製の円柱形をした水中を走る兵器のことです
いわば水中ミサイルみたいなものです
先端に大きな爆薬があり、命中すれば、空母や戦艦といった大型の軍艦でも1発で撃沈できるほどの威力があります
但し、当時のことですので無誘導ですから、当たらないことが多い欠点があります
その欠点を魚雷そのものに人間を乗せて命中するまで操縦させて解決しようとしたものが人間魚雷「回天」です
もともと人間を載せるように作られていないものに無理やり改造して人間を乗せるのですから当然無理があります
そもそもまともに人間を乗せて水中を走行できるのかすら怪しかったのです

しかし海軍上層部は、様々な理由で反対をしてきます
当然、特攻兵器という異常性を拡大することを認めたくはなかったのでしょう

しかし、同じ海軍でも航空隊が1944年10月末頃から神風攻撃をはじめて、空母や戦艦を何隻も撃沈したなどと華々しい戦果を挙げていると報道されていました

ところが、その戦果の実態は誤認ばかりで、そんな大戦果は戦後日米の記録を突き合わせてみるとそんな戦果は全くなく、せいぜい小型艦艇に多少の損害を与えたに過ぎなかったのです

そんな実態をしらず、海軍の航空隊が特攻隊で華々しい戦果を挙げていると聞いて、海軍の艦隊の人間はとても悔しかったのでしょう
自分たちも戦果をあげて戦争に貢献したいと焦った結果、人間魚雷を作り、実行するという発想に至ったということです
既に日本の艦隊は粗方海の藻屑となっており、残った軍艦も出撃すれば、たちまち撃沈される状況だったのです
これくらいしか、有効な反撃手段がなかったのです
結局、海軍上層部も人間魚雷を承認してしまうのです

前半は、この人間魚とは何か、何故作り出すに至ったか、そして操縦訓練に入った途端に事故を起こし、立案者の殉職に至った経緯を描きます

後半は作戦が立案され、訓練がすすめられ、出撃前の特別の休暇が特攻隊員達に与えられ、肉親に最期の別れを告げに各地に戻るシーンが長く挿入されます

終盤は基地から出撃して、人間魚雷「回天」が遂に実戦使用されるまでを描いています

人間魚雷「回天」が映画になるのは、実は本作は二作目です、最初の作品は新東宝の本作の12年前、1955年の作品「人間魚雷回天」です

こちらも、ほぼ同様の構成をとっていますが、終盤の実戦については創作が多く含まれていて、実際には華々しい戦果なぞなかったにも関わらず
そうであってほしかった
そうであったはずだという妄想で膨らませてあり、残念な点になっています
その作品に比べると、本は、大きな爆煙が上がって沈み行く船舶も見えて戦果があったように演出されてはいますが、創作の部分はそのほかのシーンも含めてかなり少なくなっているようです
その分、感情に訴えようとする演出が目立ちます

いずれにせよ日本が戦争に負けて良かったと思います
このような異常な兵器が作られ美化されなくてはならないような国家が今も続いていなくて幸せです
しかし、日本が敗戦の後民族の自主独立を回復し、伝統をたもったまま平和と繁栄を得たのは、特攻隊の方々の犠牲が礎になっていることは感じることができる作品だと思います
戦局の挽回には特段寄与することはなくとも、彼等の精神が敗戦後の日本人の自尊心の崩壊を防ぎ、いち早い復興の芽を残したのでは無いかと感じました

「回天」とは「天をめぐらして、戦局を一変させること」
「回天特攻隊」が「菊水隊」と呼ばれるは、後醍醐天皇に尽くした楠木正成の紋所が菊水であることに因みます
どちらも、負けると分かっていても最後まで忠義を尽くした楠公の精神にあやかろうとしたものと思われます

冒頭に紹介される島は大津島で、いまも回天基地の遺構が残り記念館もあるそうです
また、呉の大和ミュージアムには、実物大の試作機の回天が展示されています

あき240
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