ヴィタールのレビュー・感想・評価
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グロテスクでありつつ崇高な愛の世界
「ヴィタール」とは「生命に不可欠な器官」、または「核心」。事故で記憶を失った医大生が、解剖実習にのめりこむことによって、「記憶」を取り戻しつつ、次第に「現実」を見失っていく・・・。無機質な解剖実習室や主人公の荒れ果てた部屋、または昭和の佇まいを残す商店ですら、どこか硬質で近未来チックな舞台。青年の暮らす「現実」世界は青みを帯び、薄暗い。登場人物は張り付いたような無表情のまま、悲しみや絶望や怒りを表現し、さながら能面のような気迫を感じる。その生活観の無い「現実」世界とうって変わって、明るい陽光を浴びた南の島の楽園のような風景。そこは医大性の死んだ恋人が暮らす、この世とあの世の狭間・・・。そこで美しいコンテンポラリーダンスを披露するのはバレリーナの柄本奈美。彼女の演じる医大生の恋人は、死の間際、自分を献体として、愛する人に解剖されることを望む。彼女の思惑通り、男は彼女の“骨の髄まで”自分の物とし、「核心」を得てゆく。男にとってその「核心(愛)」はフェイクか、リカルか?世界のクリエーターに絶賛される塚本ワールドは、グロテスクであり崇高な愛の世界だ・・・。
いのちってなんだ
鉄男からずっと、フィジカルの物語を描いてきた塚本晋也。それは都市開発の暗喩だったり、マッチョで暴力的な欲望だったりしてきた。
バレットバレエで恐らく大きな転機を迎えた監督だ。若者群像らしき映画なのだけど、何か違う。妻を失った中年男と、チーマー集団の欲望と暴力の乱交。監督のトーキョーへの思いににケリをつけた作品じゃなかろうか、、、とぜんぜんヴィタールの話にならないのだが、フィジカル、マッチョ、エロス、それまで生の肉体のパワーが描いてきた塚本が、死について描いた恐らく初めての作品。それがヴィタールだ。解剖実習を通して死者と対話し、自らが再生していく物語。あらゆるところで、いのちが軽んじられる昨今、こういう映画こそ時代に必要だとおもう。
印象「泣ける」にもチェックしておいたが、誤解を招かぬように補足すると、一般的ないわゆる「涙の強盗」映画ではなく、しみじみと胸の奥でジーンとくるような映画。見終わった後も、1週間くらいその映画のことを考えてしまう。それが私にとってのベストムービー。
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