「大阪だからこそ生まれゆくリングの絆」お父さんのバックドロップ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
大阪だからこそ生まれゆくリングの絆
見事、幕を閉じたロンドン五輪でメダル旋風を巻き起こしたレスリングつながりの映画をと、棚からDVD引っ張り出して、久々に観たけど、やっぱりオモロいなぁ〜。
劇場で観たのが7年も前やと思えないぐらい見応えが色褪せてない。
まあ、私が敬愛する物書き・天下の中島らも先生なんやからつまらんワケが無い。
(急死する直前の先生本人もウサン臭い床屋のおっさん役でゲスト出演している)
アルコール・薬物依存症、躁鬱病に苦しみながらも、深い人間観察とさり気なく温かい笑いで綴った文芸作品同様、最後まで心を鷲掴みにされ続けた。
中年レスラーのしょっぱいファイトぶりや大阪の下町人情etc.の笑いの部分、
必死に息子を振り向かせようとする父親のプライドや死んだ母親を未だ愛するがゆえに父親へ反発する息子の複雑な胸中etc.の泣かせる部分、
両方とも出しゃばらず、観る者を安心してストーリーへ導き、なおかつ大事な場面では確実にオトしてくれる。
特に、牛之助のオトンを演じているチャンバラトリオの南方英二師匠は、泣きと笑いの両極で味わい深い存在感を放つ。
異種格闘技戦のゴング前、意を決した牛之助がリング上で叫んだメッセージに、みんながジ〜〜ンとしている最中、すかさず投げかける師匠の呟きの絶妙なタイミングの素晴らしさ。
脱帽の一言である。
生ぬるい空気に浸かりっぱなしの静岡人が逆立ちしたって生まれてこない発想だ。
8年経た現在、師匠も先生も残念ながら鬼籍に入ってしまった。
此処にはもういない…。
しかし、入れ替わって走る神木隆之介の瑞々しい活躍が見事に師匠達のバトンを受け取っているみたいで感慨深い。
肝心の試合がおもいっきり『ロッキー』になっていたのが、オイオイって思ったけど、吉本新喜劇とは違う難波のエネルギーに圧倒される。
拍手を送り続けながら最後に短歌を一首
『向かう父 ぶつける背中の しょっぱさよ リングに叫ぶ セメントの愛』
by全竜