「最後にガツンとやられちゃった」茶の味 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
最後にガツンとやられちゃった
山と畑しかないような田舎に暮らす春野家の人たちの一時ととらえたハートフルシュールコメディ。
自分好みで面白かったんだけど、何が良いって、春野家の人たちが、嘆いたり文句を言ったり、ましてや怒鳴ったりしないのが良いよね。
だけど、ちょっとした悩みはあって、それを克服すべく一歩踏み出すストーリー。
悩み自体は誰にでもあるような些細な、悩みともいえないようなことで、そこに特別さがないのも良いよね。
映画でよくあるパターンだと、現状を打破するためのトラブルやきっかけがあって、それがドラマとなり前に進むものだが、「茶の味」に関してはそれがないのがまた良いよね。
誰にでもあるような悩みは特別なことなどなくても前に進む。つまり、すごくシンプルな人間の成長の物語なんだな。
全体的にまったりとしたストーリーを刺激的にし、ドラマチックさや瞬間的な楽しさを出すために、奇抜な映像表現とやけに豪華なキャストがある。ただの自然の風景も美しかったけどね。
全身刺青で血まみれの男役の寺島進さんは特に最高だったな。
一言も発さない寺島進さん。ただ立っているだけの寺島進さん。じっと見つめてくる寺島進さん。頭にウンコのせた寺島進さん。もう爆笑だった。
映像の方では、何度か出る、真っ暗闇の中を走る電車の場面が幻想的で良かったね。窓から漏れる明かりだけが浮かび上がって夜空を飛ぶ銀河鉄道みたいだったよね。
そして、ただのファンキーなコメディ担当の老人だと思っていたお爺の残したアニメーションは感動的だった。
家族が成長し喜ぶ瞬間がお爺の喜びだったんだな。
山に見守られる中で僅かな成長をみせる春野家の人々。家族の成長をただ見守るお爺が山だったんだ。
幸子はお爺に少しだけ背中を押されて逆上がりができるようになった。
電車の中でハジメを見守る父は新たなお爺を予感させる。
毎日当然のように訪れる夕日を見るように、特別ではない成長を見守る山がある。