「今回の舞台は海底」映画ドラえもん のび太の海底鬼岩城 森林熊さんの映画レビュー(感想・評価)
今回の舞台は海底
前作に続いて前人未到の地を行くことになる今作。山と海とどちらにキャンプに行くかで真っ二つに分かれていたのび太達だったが、スネ夫が金塊の乗った沈没船が大西洋に沈んでいるというニュースを見たことでジャイアンと共に海派へと鞍替えする。それによってキャンプ地は海底になったのだが、当然エラ呼吸出来ないのび太たちはテキオー灯で水圧に耐えられる身体を得て水中バギーに乗って日本海溝を降りて行く。
この水中バギーが今作では重要なキーパーソンならぬひみつ道具となっており、時速800kmで爆走可能。内臓コンピューターは図鑑的な要素に加え、指示した通りに走ることが出来る。更にはしずかちゃんとのやり取りの中で、オイル漏れという名の涙を流すシーンもあった。座席はわずか2つなのに基本5人乗りしていたが、さすがにこれはバギーが可哀想になる。終盤は6人乗りしてるし。
金に目の眩んだスネ夫とジャイアンはドラえもんの目を盗んでバギーを操作し、大西洋へと向かってしまう。しかし、テキオー灯の効力が24時間で切れてしまうと慌てるドラえもん。これはいきなり言い出した訳ではなく、最初に使う時にハッキリ言っているのだ。説明を聞いていなかったスネ夫やジャイアンが悪い。しかし、そんなことを言っている場合ではなく、必死に追いかけるもののタイムリミットは迫って行く。もうダメだと思ったが、なんとスネ夫もジャイアンも生きていた。不思議に思うドラえもんだが、後にバギーの録画機能によって海底人によって助けられたことが判明する。まさかのドラレコである。さすがドラえもんの道具は時代を先取りしている。
その後キャンプ地に戻ったところでクラーケンに襲われているところを海底人エルに助けられたものの、海底国家ムー連邦へと連行されてしまう一行。スネ夫は噓つき、ジャイアンは乱暴者ということで監獄に入れられてしまうが、正直噓つき度合いで言うとのび太も変わらないのだが。噓をドラえもんによって真実に変えて貰ったりすることは多々あるが。ムー連邦に軟禁されてしまったドラえもん達は通りぬけフープを使って脱獄し、国境も超える。しかし、エルのピンチにジャイアンが飛び出したことで再度捕まってしまい、死刑が宣告される。
ただエルは助けられたことからのび太達の無罪を要求。子供の頃ならエルの意見に賛成だが、さすがに大人になると事情はどうあれダメだろうと思う。司法取引してなんとかと思ったところで、ムー連邦と敵対していた亡国アトランティスの鬼岩城を支配する自動報復システムであるポセイドンが海底火山の噴火に反応し、世界が滅亡するピンチであるという報告が入る。ひみつ道具を持つドラえもんならこの窮地を救えるとエルが直訴したことで、実質の司法取引が成立。世界を救うためにもドラえもん達はアトランティスへ向かうことになった。
この設定だが、明らかに当時の冷戦を題材にしている。ポセイドンが発射しようとしている鬼角弾は明らかに核兵器だし、全ての生物が死に絶えてしまうという話も出て来る。ドラえもんの割には世相を反映させた面白い作品だ。ちなみにアトランティスが滅びた理由はこれまた鬼角弾の実験失敗によるもの。バミューダトライアングルが実は核兵器から守るためのバリアであり、そのせいで飛行機すらも墜落してしまうというのは面白い設定もある。ただまぁ実験をバリアの中でするなよというもっともなツッコミどころがあるのだが。そのせいでアトランティスは滅んでしまい、ポセイドンと鬼角弾だけ残るという地獄絵図になっている。
このバリア、実は地下には及んでいないという穴があったため、地中からアトランティスへ潜入することに成功する。ただ、130万k㎡という広大な土地では目的地を探すこともままならず、しずかちゃんがわざと捕まることで本拠地に案内させるという強硬策に出る。このシーン、提案者のしずかちゃんが捕まる役目を引き受けるのだが、エルやジャイアンが捕まる役に立候補した際は腰が引けていたのび太も、さすがにしずかちゃんが行くと言った時には自分が捕まる役になると言い出していた。こういうところは男の子感があっていい。実際には無いが、スネ夫が最後に立候補した時に皆で「どうぞどうぞ」となったら笑う自信がある。
鬼岩城へと辿り着いたものの、守備隊によってドラえもん達はピンチに陥る。しずかちゃんはポセイドンを説得しようとするも、海底火山も報復だと受け取るポセイドンには通じない。なんとかしずかちゃんの元まで辿り着いたドラえもんだったが、満身創痍なため何も出来ず。しかし、鬼岩城にビビッて四次元ポケットに隠れていたバギーがしずかちゃんの涙を察知して飛び出し、ポセイドンへと特攻を敢行する。バギーによってポセイドンは破壊され、世界は救われた。
ムー連邦に帰ったドラえもん達とエル、ネジ一つしか残らなかったバギーは英雄として崇められることとなった。今作ではコンピューターは指示された通りにしか動かないという部分にもスポットが当てられている。ポセイドンは遥か昔にプログラムされた通り、報復攻撃をすることしか考えておらず、バギーは危険かどうかなど考えずに言われた通りにしか走らない。しかし序盤の方からしずかちゃんのお願いを受けたことで柔軟に対応したり、しずかちゃんにだけドラレコを見せたりと少しずつ行動が変わる。怖いからと四次元ポケットに逃げ込むことも考えた末の行動なのだ。成長したバギーはしずかちゃんのためにしずかちゃんの静止も聞かずに特攻するというシーンは感動した。
ドラえもんはのび太に何を言われてもちゃんと自分で考えて良い悪いを判断して、やっていいこととやってはいけないことを判断することの出来るAIがある。しかし、バギーは当初それが出来ていなかったのに、短い期間に成長しているのだ。スネ夫やジャイアンを見殺しにしようとしたシーンがあるからこそ、最後の行動もなお光るというものだ。