KTのレビュー・感想・評価
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阪本順治によるハリウッド映画
昔映画館で観たが再見。
黒沢清はいかにアメリカ映画を日本で撮るかに賭けている監督の一人だが、阪本順治はそれとは異なるアプローチで、ハリウッド映画に漸近する。
KTは金大中事件を映画化したものだが、事件の持つ政治的意図やその影響の大きさに対し、ミュンヘンオリンピックのテロなどと比べると、ビジュアルのインパクトは乏しい。しかし荒井晴彦の緊張感溢れる脚本と。阪本順治の精密なキャメラワーク、男たちを描くマチズモの発露が本作を緊迫した秀作に仕上げている。
全編を通じて、ロング或いは中距離に徹したキャメラは、人情よりは硬質な緊迫感に満ちた本作を適確に捉える。
日本や自衛隊の世界に干渉できないその様を三島由紀夫のように憂う自衛官を演じる佐藤浩市と、KCIAのキム・ガプスの対比が美しいが、そこに介入する新聞記者の原田芳雄の魅力もいい。ヤン・ウニョンにもう少し色気を求めるのは贅沢か。
他にも筒井道隆の初々しくも惹き込まれる演技や、ラスト近くの敬礼に表象される、香川真司の真面目な自衛官役も魅力的。
最大のクライマックスである、ホテルでの金大中拉致と、その後の韓国へ向かう船内での静かな攻防、なんとか体裁を整える日本からのヘリの接近などは、冒頭で述べたハリウッド的演出の日本的解釈として秀逸だ。さらに言えば、スカイラインをはじめとする車と人間の捉え方も素晴らしく、ここ最近は見ない、骨太な映画に仕上がっている。
期待して観た通り
日本製韓国映画
いい意味で韓国映画みたいな日本映画。
わたくし「人類資金」を観て以来、軽く阪本順治恐怖症でしたが、今回は問題なく生還できました。
普通に面白かった。知ってる顔がみんな若いなー。
原田芳雄を筆頭に、佐藤浩一、柄本明、香川照之、麿赤兒など豪華キャスト目白押し。
鶴の一声を受ける官房長官が円谷作品でお馴染み佐原健二。音楽はなぜか布袋寅泰。
金大中誘拐事件の裏にあるKCIAと自衛官の関係を描いた影の日韓史。
三島由紀夫の自決事件から始まるのも、観ていくうちにだんだん理由がわかってくる。
実際のところは原作も読んでいないしわからないけど、少なくともこうすれば日本でもポリティカルなサスペンスが作れる、というレアな成功例ではある。
全体に地味だし、事件を知らない人には話が見えない危険性はあるけど、今ほどCGが使えない2000年代初頭に、車やロケ場所の工夫でちゃんと70年代の空気を出しているのはすごい。
佐藤浩一演じる自衛官は、歴史の中で自分の役割を持っているKCIAのキムをうらやましく思っていたんだろうなぁ。
それはたぶん自身のアイデンティティを求めて無邪気にリスクに近づく筒井道隆と大差なく、その道のプロではあるとはいえたいへん危なっかしい。
衣食足りて礼を知る、ならぬ意味を欲しがる彼の悩みはしかし、キムからすれば贅沢な悩みでしかないはず。
後半になるにつれ、互いにない物ねだりしてる男同士のブロマンスのようになっていくけど、韓国映画ほど前面に押し出してこないし、とくに序盤ではそのラインが見えづらかった。
代わりに強烈な存在感を示す原田芳雄はモロ戦後日本の象徴的なキャラクターで、その名も神川昭和。
現実にいたらそんなカッコいいわけないと思うけど、左も右もなくただ生きてること自体に意味があるんだと公言して憚らない飄々としたノンポリ。
でもそれも凄惨な歴史を目の当たりにした記憶があるからこそというパラドックス。
佐藤浩一みたいな憂国保守は絶滅危惧種というか、20年後の今、もはや実在しないのかも知れない。
そう考えるとますます日本の観客にとって誰得なんだ感は拭えない。
音楽とタイトル以外は悪くない
派手さを排除した堅実な演出に好感が持てた
総合70点 ( ストーリー:70点|キャスト:70点|演出:80点|ビジュアル:70点|音楽:65点 )
実際に日本で起きて世間を震撼させた大事件を基に、暗殺や秘密工作や国際的陰謀が描かれる。この手の話だと邦画は何かと無意味な派手さや大袈裟な演出をして迫力をだそうとしてしまいがちで、その結果として却って質感を下げてしまう傾向があるが、この作品では現実的な堅い演出で諜報戦や工作員を描いていて好感が持てた。設定や物語をもう少ししっかりしてくれればさらに良かった。
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