劇場公開日 1954年1月15日

「【今作は、初老の男が、愚かしき息子の美しく健気な嫁を思い遣る姿を趣高く描き出した作品。夫の浮気、流産に耐える妻を演じた原節子さんの暗い雰囲気を吹き飛ばす笑顔が素晴しき作品でもある。】」山の音 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 【今作は、初老の男が、愚かしき息子の美しく健気な嫁を思い遣る姿を趣高く描き出した作品。夫の浮気、流産に耐える妻を演じた原節子さんの暗い雰囲気を吹き飛ばす笑顔が素晴しき作品でもある。】

2025年9月16日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■60台の尾形信吾(山村聡)は、鎌倉の谷の奥から聞こえる深い山の音に、自分の死期のようなものを感じる毎日を送っている。
 彼は、会社を任せようとする息子修一(上原謙)の、美しく健気で優しい嫁、菊子(原節子)の笑顔に癒される日々を送っていた。
 だが、その息子は浮気をし、一人娘の房子(中北千枝子)も、娘を連れ家を出て戻って来ており、尾形家は不穏な空気が縦横していた。

◆感想

・令和の今、今作の様な映画は製作できても、公開は難しいのではないかと思う。上原謙演じる修一の、女性蔑視ともとれる妻に対する発言の数々や、浮気相手の戦争で夫を失った女との関係も、戦後の暗さを感じさせるからである。

・今作を観ていると、原節子さん演じる菊子が、普段は笑顔で気丈に振る舞っている姿と、小姑でもある房子が、自分の美貌に嫉妬しその思いを信吾にぶつける言葉を聞いた時に、暗い顔で目を伏せる対比の演技が哀しくも素晴らしいのである。

・そして、菊子は修一の子供を流産し、信吾の家を出る。
 信吾はその事に対し、息子を甘やかして育ててしまった事を深く悔いるのである。

・だが、或る日。信吾の会社に菊子から電話が入り、二人は爽やかに腫れた公園で久しぶりに会うのである。
 菊子の表情は、且つてのように明るく、その顔を見た信吾は”その笑顔こそが、菊子さんなんだね。”と嬉しそうに言い、”信州に僕らが引っ越したら、たまには来ておくれよ。”と優しく話しかけ、菊子は静に頷くのである。

<今作は、初老の男が、愚かしき息子の美しく健気な嫁を思い遣る姿を、趣高く描き出した作品であり、夫の浮気、流産に耐える妻を演じた原節子さんの演技が素晴しき作品でもある。>

NOBU
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