「松田優作じゃなきゃダメなのだ、わかるか!?」野獣死すべし(1980/村川透監督) pekeさんの映画レビュー(感想・評価)
松田優作じゃなきゃダメなのだ、わかるか!?
2022年、「角川映画祭」で鑑賞。
先に『人間の証明』を観て、松田優作のカッコよさ、素晴らしさにあらためて気づいたので、優作さんを観るために、そしてわが思春期ど真ん中の80年代の懐かしさにひたるために映画館に足を運んだ。
そんなわけで40数年ぶりに観たけれど、いやぁ~面白かった。
むかし観たとき、当時、僕は中学生だったが、そのときよりも面白く感じたかもしれない(ちょっと、人、殺しすぎだな、と思ったけれど)。
考えてみると、凄絶な戦場体験と、現金強奪を目的とした大量殺人との因果関係に説得力がないなど、ストーリーにも腑に落ちないところがあるのだが……。
まあそれはそれとして、やっぱり松田優作はすごい。カッコよすぎる。すごすぎる。
あの演技は完全に憑依だな。もうあんな役者は出てこないだろう。鹿賀丈史もぶっ飛んだ演技をしているけれど、やっぱり優作さんには、かなわないと思う。
しかし、この映画、松田優作じゃなかったらどうだろう? おそらく、この異様な緊張感は出せなかったのではないかと思う。ほかの役者だったら、ちょっと安っぽい感じのするハードボイルド映画(クライムサスペンスといったほうがいいのかな?)で終わっていたんじゃなかろうか。というか、ほかの役者だったら、そもそもこの脚本を、狂気に満ちたこの役柄をこなせなかったのではないか。
まったく内容を憶えていない映画もたくさんあるけれど、何十年も前に観たこの作品はわりとよく憶えていて、とくに終盤の列車のシーン、「リップ・ヴァン・ウィンクル」のくだりは印象深く、むかし鑑賞したあともくり返し思い出していた。
でも、意外なことに「汝の家郷は有らざるべし」という萩原朔太郎の詩はまったく憶えていなかった。今回数十年ぶりに鑑賞して、主人公の空虚な内面に重なるようなこの詩は、とても胸に響き、印象に残った。
そんなこんなで、劇場を出たときに、僕はちょっと松田優作になったような気がした(実際は全然違うけどな)。でも、昭和の男なら、映画館を出たあと、自分が高倉健や松田優作やスティーブ・マックイーンやブルース・リーになったように感じたことが一度はあるはずだ。こうでないといけない、と僕は思うのだ。最近はこういう映画が少なすぎるのではないか。こういう映画は、いい映画なのだと言いたい。
中学生のときに「わかるか!? わかるか!? わかるか!?」と例のセリフを、真似してよく遊んだものだが、今回も家に帰ってまた「わかるか!? わかるか!? わかるか!?」と気がつけば、ひとりでモノマネをしていた。けっきょく、僕のやっていることは40数年前と同じなのだった。
それはともかく、「今さら角川映画かぁ」という気がしないでもなかったが、観てよかったです。
優作さんの演技を存分に堪能できたし、新しい発見もあったしね。
あっ、それから久しぶりに小林麻美を観ることができて、それにもグッときた。綺麗だなぁ。
追記
はじめて観たときは、全然わからなかったけれど、この作品には、ショスタコーヴィチ、ショパン、ベートーヴェン、モーツァルト、アルビノーニ……と様々なクラシック音楽の大御所の代表曲が使われています。知的で冷徹な「野獣」、伊達邦彦の愛聴する音楽は、ロックやジャズではなくて、やっぱりクラシックじゃないとダメですね。
それから、岡野等&荒川バンドの演奏する本作のテーマ曲も美しく、この映画の乾いた冷たい雰囲気を作り出すことに貢献していると思います。
いま聴いてもクールで瑞々しい演奏です。
