「国税庁の取材協力やマルサOBの監修協力に基づいた徹底した脚本は本作もリアル。 コミカルとシニカルのバランスも上手くエンターテイメントとして卓越しています。」マルサの女 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
国税庁の取材協力やマルサOBの監修協力に基づいた徹底した脚本は本作もリアル。 コミカルとシニカルのバランスも上手くエンターテイメントとして卓越しています。
2月21日(金)からTOHOシネマズ日比谷さんで開催されている「日本映画専門チャンネル presents 伊丹十三 4K映画祭」(監督作品を毎週1作品、計10作品上映)、本日3週目は『マルサの女』(1987)。
『マルサの女』(1987年/126分)
『お葬式』(1984)、『タンポポ』(1985)に続く脚本監督作品3作目。
年に1本ペースで3作ともテーマを変え、ハズレ無しの傑作揃いなのは改めて賛嘆ですね。
伊丹監督自身は『お葬式』などの収益を税金にごっそり持って行かれて税金や脱税に興味が湧いたようですが、世間はまさにバブル絶頂期、今では考えられないほど桁違いに金が余った時代に、国税局査察部(マル査)という職業に焦点を当てた着眼点と先見の明は感服です。
国税庁の取材協力やマルサOBの監修協力に基づいた徹底した脚本は本作もリアル。
コミカルとシニカルのバランスも上手くエンターテイメントとして卓越しています。
伊丹作品ではセクシャル(性描写)なシーンや食のシーンが随所に描かれますが、どれも避けられない人間の営み、登場人物に人臭さと深みが増しますね。
ジャズサクソフォーン奏者でもある本多俊之氏の音楽も公開当時も印象的でしたが、今ではすっかりスタンダード・ナンバーになりましたね。
本作も当て書きのようにキャスティグが抜群。
主役・板倉亮子(演:宮本信子氏)と敵対しつつも奇妙な友情が芽生える権藤秀樹(演・山崎努氏)の3度目の共演も絶妙なコンビネーション。
亮子の上司の花村(演:津川雅彦氏)、「マルサのジャック・ニコルソン」と呼ばれる同僚の伊集院(演:大地康雄氏)、同じく同僚の金子(演:桜金造氏)はじめ、脇もパチンコ店社長の伊東四朗氏、税理士の小沢栄太郎氏、港町税務署時代の上司の大滝秀治氏、社長シリーズを彷彿させる小林桂樹氏の軽妙洒脱なボス役など適役で豪華。
なかでも組長役の芦田伸介氏は今までのイメージを一新、ドスの効いた声で好演していましたね。
40年前の狂乱のバブル時代を回想する歴史的価値ある作品でもありますが、まさかその後40年近くも日本経済が低迷しつづけるなど思いも寄らなかったですね…。