「正に本作はプレ「犬神家の一族」だったのです」本陣殺人事件 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
正に本作はプレ「犬神家の一族」だったのです
傑作です!
高林陽一監督の腕前は全く持って見事です
1970年代以降の横溝正史原作の映画ブームの原点は本作です
すべては本作から始まったのです
単にその最初の作品というだけの意味ではありません
本作が素晴らしい傑作であったからこそ、本作に続いて横溝正史原作映画が次々に作られていったのです
そして、その後の横溝正史原作映画の殆どが本作を製作の基準にしていることが一目でわかるでしょう
本作は、時代設定を原作の戦前の昭和12年から、1970年代の現代に変更しています
これはもちろん衣装や小道具、美術など時代考証を考えなくて済みますから製作費を下げる事が目的であったと思います
しかし、それが思わぬ効果をもたらしています
何十年も前の戦前ならいざ知らず、家柄だとか、世間体だとかの古い因襲が地方の田舎町ではいつまでも残されて、現代でも未だに存在している
そのことが、都会からやって来る現代のジーンズ姿の若者との対比によって、より鮮やかに浮き彫りになる効果があったのです
そしてその因襲に突き動かされて犯される殺人の愚かさもまた際立つのです
1977年の「八つ墓村」、1981年の「悪霊島」も時代設定を現代に変更しているのは、この効果を取り入れようとしており、明らかに本作の影響です
それは現代でなくとも、戦後すぐの設定であっても、戦前の古い時代が戦争を越えてもなお生き残っているという効果は変わらず発揮されうるのです
本陣の古い宏壮な屋敷、紅殻色の壁、黒光りする太い柱、障子の規則的な格子、金屏風
江戸時代からそのままの姿を留めて登場します
それらにこそ、そこに暮らす人々を現代の今もなお因襲に縛り付けているなにかが宿っているからなのです
これらの大昔から全く変わらぬ姿がスクリーンに写しだされた時、時代設定を現代に代えようとも、そこに住まい暮らす人々の精神はいささかも変わってはいないことを、観客は一目で理解できるのです
ここを押さえないと横溝正史ものの映画は成立しないことを高林陽一監督は見抜いてたのです
これこそが横溝正史原作映画の最も大事な肝であると
そして、横溝正史ものの特徴である、凝った殺人トリックをビジュアルに再現することがハイライトになることも
それが実に映画映えするシーンになるということもまた、監督は本作で鮮やかに例示しています
市川崑監督の「犬神家の一族」は、本作を出発点として製作されたのだとひしひしと感じます
本作の全体の雰囲気を踏襲しつつ、余りに暗すぎる映画になるのをどう解決するか?
それが市川崑監督の「犬神家の一族」の製作方針だったのだと思われます
それゆえに金田一耕助は、より軟弱に、より女性受けする優しいキャラクターに変更されたのです
単調な印象になる捜査過程を、警察の捜査官をコミカルなキャラクターに変更することで解決したのも、本作を土台に構想したからだと思います
もちろん犬神家の屋敷、村や街の光景の再現に力を入れてセットを組んだり、ロケ地を探したのも本作から学んだから故と思うのです
配役も演技も演出もみな素晴らしい
撮影と照明の美しさは特筆ものです
市川崑監督もこの美しさを上回らないとならないプレッシャーを感じたと思います
正に本作はプレ「犬神家の一族」だったのです
そして、本作を土台にすればものすごい映画が撮れる!
そう角川春樹社長は天啓を得たに違いありません
映画がヒットすれば、原作の文庫本も売れる
文庫本が売れれば映画がより入る
ならば自ら映画の製作者になればよいではないか
角川映画の始まりも、本作の素晴らしい出来映えがあったからだといえると思います
音楽に大林宣彦のクレジットが見えます
琴の音などの音が、本作の超重要ポイントになることを見越して高林監督が召集したのだと思われます
この眼力もまたさすがです
高林陽一監督の実力、恐るべしです