「国民を乗せた日本という客車を軍国主義に向かおうとする機関車から切り離せというのが、本作のテーマだったのです」兵隊やくざ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
国民を乗せた日本という客車を軍国主義に向かおうとする機関車から切り離せというのが、本作のテーマだったのです
さすが増村保造監督の作品です
単なる娯楽映画では決してありません
冒頭、大映マークと共に兵隊ラッパが鳴り響き、主人公の有田上等兵のモノローグで始まります
兵隊の話はもうごめんだって?
私も同感だ
20年が経った今でもカーキ色を見ると胸糞が悪くなる
本作は単独で娯楽映画として十分に面白く、楽しめます
しかしこの作品のテーマを理解する為には、事前に見ておかなければならない映画があります
一つ目は1952年の真空地帯
二つ目は1959年から1961年の人間の條件全6作
この二つの映画を見ていなければ、本作を観ても娯楽映画として楽しむだけに終わってしまうかも知れません
それではもったいなさすぎです
本作はその二つの映画に対してのアンサーなのです
真空地帯は、人間性を吸い出して真空にしてしまう軍隊の非人間的な実態を初年兵の目で描いています
人間の條件は、大学出の元エリートの上等兵の目からソ満国境に駐屯する日本軍の実態を描いています
そう、本作はその二つをかき混ぜた舞台設定なのです
兵隊の話はもうごめんだ
思い出したくもない嫌な思い出はその二作に濃縮されて詰まっています
そこに、このような初年兵や上等兵がいたらどれだけ痛快であったろうか!という映画なのです
本作を観るかって軍隊生活を送った人々にとっては、溜飲を下げてくれる映画であるのです
そして戦争に行かなかった若い世代にとっても
こんな生活は絶対にごめんだと感じるでしょう
共通するのは、戦争に負けて良かったのだという思いでしょう
つまり本作は強力な反戦映画なのです
戦闘により人間が破壊されるのか、戦闘以前に人間が破壊されるのかの違いであって、後のベトナム戦争を描くアメリカ映画と共通するものなのです
脱走して自殺する初年兵の名前は野木です
日露戦争の英雄、乃木将軍をもじっています
南方に転戦すべく彼らの部隊は軍用列車で雪の満州平野を進んで行きます
南方のフィリピン、ビルマ、ニューギニアなどは既に戦況は悪化どころか全員戦死の運命が確実に待ち構えていることを、兵隊達はみな知りながら眠りこけているのです
途中蒸気機関車だけが切り離なされて、兵隊達を満載した客車は雪の平原の中に取り残されます
兵隊達が戦場に行こうとしているのではない
機関車が彼らを戦場に連れて行くのだという意味です
つまり軍国主義の政府が機関車にメタファーされているのです
大宮と有田の二人が、南方に送られて戦死するくらいならと機関車に屋根伝いに乗り込み、機関士と缶焚きを実力をもって従わせて客車との連結器を外させたのです
もちろん革命の暗喩です
国民を乗せた日本という客車を軍国主義に向かおうとする機関車から切り離せというのが、本作のテーマだったのです
だから大宮初年兵は下層階級の男であり、あれほどまでにタフで強いのです
そしてインテリの有田上等兵は、大宮から信頼され有田の指導に従うのです
そして二人は機関車の切り離しに成功した時、カーキ色の軍服を蒸気機関車の缶の炎の中に投げ入れるのです
つまり戦争放棄のメタファーです
機関車の奪取に拳銃が必要であったのは当然です
しかし二人は機関車の奪取に成功したあとも、拳銃を護身用に必要と考えているのか捨てはしなかったのです
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼をしていないのです
戦争は放棄しても、自衛は放棄していないのです
シナ服は当然中国人に扮装して逃げる為です
つまり情報工作活動です
生き延びるためには情報工作も必要なのです
本作は単なる娯楽映画では無いのです
かといって左翼臭い洗脳映画では決してありません
正しいバランス感覚のある反戦映画だと思います