「悪の普遍性」武士道残酷物語 シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
悪の普遍性
本作は私は1978年に自主上映会で鑑賞していますが、当時は自主上映会が盛んで同時期に『仇討』や『切腹』なども鑑賞したり、黒澤明の作品がリバイバル上映されたりで、個人的には「日本の時代劇ってスゲェー」ってハマっていた時期でもありました。
当時の個人的な時代劇のイメージってテレビでの連続時代劇などの勧善懲悪モノとしてしか見ていなかったのでこれらの作品は衝撃的で、その中でも本作は昔から現在へと全く違った時代の中で、連綿と続く失われない精神というか文化というか考え方によって起きる悲劇が描かれていて、本当に驚かされました。
本作の場合その後見る機会に恵まれず、これも約半世紀ぶりの鑑賞となりましたが、詳細は殆ど忘れていても頭に残っている作品の印象だけは全く変わっていませんでした。
現在社会で武士道が定期的にブームになるのですが、自分の先祖が百姓・町人だったかも知れないのに「武士道がカッコイイなんてよく言えるな」っていつも思ってしまうのですが、本作を見て武家社会と今の資本主義社会の共通性を考えると、それが皮肉にも符合しているようで妙に合点がいきました。
本作の一番凄惨な悲劇である四話目の最後に残された子供が繰り返す「侍の命は侍の命ならず、主君のものなれば主君の為に死に場所を得ることを誉とする。己を殺して主君に使えることこそ忠節の始めとする。」
これが何の文章なのか分かりませんが武士道の心得だとすると、これを美学とするか主君(組織)の都合だけを考えた、マインドコントロールと捉えるか、日本人は今でもこれに苦しめられていますよね。
少し前に見た『こんにちは、母さん』のエピソードと、本作の最終話のエピソードはほぼ同じ内容と言っても良いし、最近のニュースでは“ビッグモーター”や“ジャニーズ事務所とその関連マスメディアの忖度”問題も、問題である核心は同じなんですよね。
そういう意味でも60年前に作られた本作は今見ても凄いと思いますし、今現在では黒澤・小津監督などの陰に隠れてしまっていますが、今井正監督をもっともっと再評価して欲しいと願っています。