「粛々と罪を重ねる犯罪者を圧巻の演技で魅せる重厚な作品です。」復讐するは我にあり 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
粛々と罪を重ねる犯罪者を圧巻の演技で魅せる重厚な作品です。
池袋の「新文芸坐」で今村昌平監督作品特集で「楢山節考」と共に上映されていて観賞しました。
で、感想はと言うと、昭和の香り漂い、どっしりとした重厚な作品。
今から50年以上前に実際に起こった犯罪事件をモデルとした作品で、犯人の前代未聞な犯行に「希代の殺人鬼」「史上最高の黒い金メダルチャンピオン」「悪魔の申し子」と形容されたとの事ですが、こういう言い回しを聞くと改めて「事実は小説より奇なり」とはよく言ったもんだと思います。
そんな事件の犯人の犯行の軌跡と人間像に迫るストーリーは見応え十分。
なんと言っても1番の見所は緒形さんと三國連太郎さんの共演シーン。ここに倍賞美津子さん、ミヤコ蝶々さん、小川真由美さんが絡んでいき、濃密かつ重厚でいて、淡々と粛々と行われる犯行に何処か哲学的な薫りを漂わせます。
個人的にはフランキー堺さんがなんか嬉しい。
ああ言った何処か飄々した俳優さんって少なくなりましたね。
緒形拳さんの淡々として、沸々と殺人鬼、榎津巌を演じていますが、この榎津巌が殺人事件を起こす動機が淡々としすぎてて、登山家が「何故、山に登るのか? そこに山があるから」の理由よろしくとばかりに殺人を犯していく。
父親に対する当て付けとも言えますが、普通に人を殺めていくのが怖い。
殺人犯の心境なんてそんなもんだと言えば、そんなものなのかも知れませんが、当時としてはこのシリアルキラーな描写はショッキングでしたでしょうね。
後半から心を通わしていく小川真由美さん演じる浅野ハルに正体がバレてからが抜群に面白い。
開き直る訳でもなく、かと言って縮こまっている訳でもない。もう淡々と粛々としていて、ここに清川虹子さん演じるハルの母親で過去に殺人を犯した事のあるひさ乃との3人会話はツボ。
食事のシーンとかは名優の真骨頂です。
また、清川虹子さんとの人を殺めた経験のある者同士の会話の探り合いも榎津巌の人物像を深める上でも重要な場面かと思います。
緒形拳さんが物凄い存在感があるのにそれをひた隠すんですが、それでも存在感が滲み出るんですよね。
高倉健さんや菅原文太さんなんかもそうなんですが、もうこの手の俳優さんは今後出て来ないでしょうね。
巌の妻で義父の鎮雄と心通わす倍賞美津子さんがなんともエロい。
また、鎮雄役の三國連太郎さんはやっぱり圧巻の演技を魅せてくれます。
殺人と詐欺を繰り返し、かと言って必死に正体を隠す訳ではない。捕まってからも淡々と自身の罪と刑を受け止める巌に死刑の判決が下され、遺骨を山頂からばらまくシーンは鬼気迫る物があります。
台詞だけでは絶対に完結しない父と息子の葛藤の関係がこのシーンに込められてます。
今村昌平監督の想いと役者陣の熱が産み出した作品はやっぱり骨太とズッシリとした辛くも苦くて、何処か甘さを感じられる作品。
おこちゃまには分からない大人の作品で、今の歳になって、劇場で観れた事が改めてラッキーだと思いました。
こういう重要な作品は昭和らしいと言えば昭和らしく、いろんな映画を観る上でとても貴重な機会。
リバイバル上映が沢山されてますが、洋画の名作だけでなく、邦画の名作・奇作をこの機会に上映して頂ければと思います。
タイミングが合えば、是非如何でしょうか?
talismanさん
コメント有難うございます♪
重いんですよね。
でも重いけど、昭和のズッシリとした見応えのある作品で仰られる通り、役者陣が抜群です。
大人になって分かる苦味がビシッと効いた作品かと思います。
また、お暇がありましたら、覗きに来て下さいね♪