「ジュリーに首ったけ」ヒルコ 妖怪ハンター よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
ジュリーに首ったけ
1990年4月。大学進学に伴い、わたしは東京で一人暮らしを始めた。
上京してすぐ、どうしても行きたいところがあり、足を向けた。何しろインターネットはまだ民間に普及する前、手掛かりになるのは情報誌のみ。不慣れな大都会で右も左もわからない中、それでも地元にいるころからどうしても観てみたい映画があった。
『鉄男』。塚本晋也監督の実質的デビュー作だ。
これを観た時から、わたしはこの映画の世界観に惚れ惚れとしてしまい、大学時代のアマチュアとしての作品作りにおいては完全にエピゴーネンであった。
その翌年、今度はその塚本監督が、なんと私の幼少からの初恋の相手、沢田研二を主演に映画を撮るという。それがこの『ヒルコ/妖怪ハンター』だった。
けれども、なぜかその時わたしはこの映画を観に行かなかった。理由は覚えていない。何かあったのだろうとは思う。ちゃんと次の『鉄男II』やさらにその次の『TOKYO FIST』は舞台挨拶にも行ったのだから、塚本監督への愛情が醒めていたわけではない。が、とにもかくにもそれが、後々まで後悔として引きずることになった。
さて、そんな映画をついにスクリーンで観る機会が訪れたわけである。これはぜひ行かねばならない。多くの期待といささかの(何か当時観に行かなかった理由となるものがあったのではないかという)不安感を抱えながら、テアトル新宿に向かった。
杞憂だった。
というか、完全に冒頭の稗田礼次郎、いや、稗田を演じるジュリーの純真無垢を絵に描いたような笑顔がスクリーンのこちらに向けられた瞬間に、私はかつての恋心を完全に取り戻し、胸の奥がキュッとなってしまった。びっくりである。恋ってこういうものなのかと、頭がくらくらした。
そこから先はあまり覚えていない。いやまあ嘘ですよ。そこかしこに伺える塚本節といっても過言ではないカメラワークや、監督あなたジョン・カーペンターがやりたかったんですねみたいなクリーチャー表現とか、もちろんそれはそれでちゃんと堪能しましたとも。だって監督の作品は全部好きなんだもん。そのうえでジュリーがね。なんか悲鳴を上げて逃げ回ったり、腹を据えて立ち向かったり、そのいちいちがもう可愛かったりなんだりで、メロメロですよメロメロ。ジョージ・A・ロメロは『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』。
閑話休題。
わたしのオールタイムベストである『鉄男』と引き比べると、やや物足りない感は実際ある。その辺は家内制手工業みたいな制作体制で映画を作っていたところから一気にメジャークラスのスタジオで映画を撮ることになった、不慣れゆえのところがあるかもしれないし、あるいは原作付きゆえのしがらみなどもあったかもしれない。あるいは低予算を情念で乗り切った『鉄男』とはモチベーションの差もあったかもしれない。憶測でなら何でも言えるけれども下種の勘繰りはこの辺にしておくとして、ただ、そうはいってもなかなかの意欲作だったかとは思う。
30年経ったことにより、若干クオリティ面では見劣りがするものの、きちんと怖いお話には仕上がっていて、上でも述べた塚本節のようなカメラワークの妙も含め、監督のファンにとっては居心地の良い作品ではあった。