ひめゆりの塔(1995)のレビュー・感想・評価
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単純なリメイクではない
神山征二郎監督が端正に丁寧に撮った佳作。今井正監督の1982年版『ひめゆりの塔』(今井監督が自身の1953年版の水木洋子脚本をそのまま用いてリメイク。原作は石野径一郎の小説)で助監督を務めた神山が、1953・1982年版の水木の脚本と、仲宗根政善のノンフィクション『ひめゆりの塔をめぐる人々の手記』を原作として監督した映画で、おそらく沢口靖子周辺が水木脚本、永島敏行周辺が仲宗根著書だと思われるが、両者が違和感なく融合していて不自然さは感じさせない。
第二次世界大戦を扱った日本の映画は被害ばかりが描かれ、加害の面があまり描かれないということはよく指摘されるが、沖縄戦を題材とした映画は沖縄という地域の独特な立ち位置もあって、そういう批判から逃れることができているように思う。また、ひめゆり学徒隊という年端も行かぬ少女たちが死地に追いやられる悲劇もストレートに観客の心に響いてくるものがある。個人的には今観ても劇場公開時に観た時と同じ印象で決して古さは感じないんだが、よほどの映画ファンを除けば自分が生まれる前に作られた映画を観ることはあまり多くないだろう。そう考えるとたとえリメイクであろうとこういう題材の映画を何十年か置きに作っていくことは必要なんではないかとも思う。
ひめゆりの塔に行った後で鑑賞
教師と生徒
沖縄戦のひめゆり学徒隊を描いた作品。
こう言うことがあったことを決して忘れてはいけない。そのための作品でもある。
生徒のために爆死を決行した先生、爆死を思いとどまった先生、毒ガスで目が見えなくなった中でも生徒を守ろうとした先生。これらはフィクションかもしれないが、どこかにあったかもしれない話だと思う。怪我人を背負ってくれる軍人もいれば、民間人を勝手に追い出す軍人もいる。
そう言う状況で自分はどうあるのか。ある意味シミュレーションとして考えるべき内容ではないでしょうか。
先生目線の「ひめゆりの塔」
DVDで鑑賞。
思い出しレビューです。
先生目線で描かれた、ひめゆり学徒隊の悲劇…
酸鼻極める戦場で、教え子たちを危険に晒さざるを得ないことに苦悩する教師を、沢口靖子が見事体現していました。
純粋な乙女たちが明るさを失い、希望も持てずに疲弊し、やがて自ら死を選んだ事実を決して繰り返してはならない…
このことを忘れてはいけない、と強く思いました。
4度目の映画化
敵前逃亡だとか奨学金返還などという理由で召集された可哀想な女学生たち。戦地での卒業式の間も空襲は続く。50万の米兵がやってきた事実、対する日本兵はほとんどが現地召集された11万人。神風が吹くと信じていた彼女たちは、戦況が悪化する中でただ看護に徹し、友人の死を悲しむだけ。移動を繰り返して次々と戦死者が出るうち、解散命令が下り、「捕虜になるよりは自決の道」を選んでしまった少女たち。エンドロールでバックに流れる「花」と沖縄の海がとても綺麗で、その綺麗なものの根底に流れる悲惨な歴史の存在を思い知らされる。
敵機に撃たれるシーンは何度か出てくるが、すごくリアルでした。戦争の悲惨さを上手く伝えているものの、広く悲劇を伝えたいためかかなりオブラートに包んだような印象も受ける。沢口靖子の演技がイマイチなところを永島敏行や脇役陣が見事にカバーしていました。
すべての人の心にひめゆりの花を
太平洋戦争末期の沖縄で、看護要員として従軍した女学生たち“ひめゆり学徒隊”の悲劇。
日本の戦争の歴史に語り継がれ、何度も映像化。
本作は4度目の映画化。1995年、戦後50年記念作品。後藤久美子、酒井美紀らが若い、若い!
古くは今井正監督&水木洋子脚本作が有名だが、こちらは実在の人物をモデルとし、史実に忠実に描いた一作。
先日見た『激動の昭和史 沖縄決戦』と被ってる点もあるが、こちらはあくまで民間人視点で、より戦争の不条理さや恐ろしさが描かれている。
彼女たちがいかにして最前線へ駆り出されるに至ったかを丹念に描写。
勝手に従軍させられ、勝手に追い払われ、民間人であるのにたったの一人も軍から護衛として就かず、地獄のような戦火の中を逃げ惑う。
序盤はちょっとお利口さんな作りかなと思ったが、次第に真に迫ってくる。(戦火の森の中を逃げてるのに、皆顔が汚れてないのは何とかして欲しかったが…)
遠くから、近場から、あちこちで砲撃、爆音、被弾…。その光景は壮絶。
何故彼女たちがこんな恐怖を身を持って体験しなければならない?
戦争の一番の被害者は巻き込まれた民間人。それをひしひしと訴える。
日本軍の非道さもゾッとする。
沖縄の老人の「日本軍が我々を守ってくれると信じていたが、間違っていた」という台詞がそれを痛烈に表していた。
散り散りになり、ひめゆり学徒隊の命運も分かれた。
絶望し集団で自決、逃げ込んだ洞窟内にガスが充満し窒息死…。
投降した一行、足を負傷し一人身動き出来ない者…辛うじて命は助かるが、米軍に助けられたというのが何とも皮肉。
逃げて逃げて、まだ戦火が迫ってない地で一時の休息。
名曲『花』が流れる中、川で水浴びをして遊ぶひめゆりの花々たちの笑顔が忘れられない。
昭和20年の沖縄戦を再現した群像劇
出演 沢口靖子、永島敏行、後藤久美子、中江有里、早勢美里、大森嘉之、本田博太郎、石橋蓮司。戦争ものではあるが、陸軍野戦病院が主な舞台で、女性ばかりの新人看護師たちの過酷な運命を描く。後半の防空壕の中の生活はたいへんなものであったろう。物資は不足し、食料はなく、川の水を汲みに行って銃撃を受けて負傷するというひどい環境だ。しかし、中でもさらにひどい思いをしているのは、病人や負傷者になった傷ついた兵士たちである。戦争が進むにつれ、この世の地獄になってゆく様子がかなり痛々しい。
師範学校の女生徒たちを引率する男性教師目線で物語は進行するが、基本は無力だ。ほんとうの主役は高校を卒業したばかりの少女たちである。
学徒動員で駆り出された若き兵士がいて、看護師の卵たちがいる。
日本は、原爆を二発落とされただけでなく、各地に市街地空襲も受けているし、戦後すぐは無条件降伏ということで食料不足など悲惨な目に遭っている敗戦国なのだということをつねに忘れないようにしなければと思う。と、同時に、中国などに対しては、加害者でもあったという事実がある。
平成になってからのリメイク版だが、現在から20年以上前に製作された当時の熱は画面から失われていない。やや、役者の汚しなど綺麗すぎるきらいもあるように思えるが、兵士の役者が汚水に顔を突っ込んだり、汚れにまみれた包帯をしているなど、部分部分では、かなり頑張っている情景が思い浮かびます。
デテコーイのトラウマ
小学生の頃に親が見せてくれました。
非常に怖いです。いまだにトラウマですが、皆が刻んでおくべきトラウマだと思います。それでも経験の恐怖には1ミリも及ばない。
自分とあまり歳の変わらない少女達が、理不尽な戦争に巻き込まれても、素直に、お国のために、励ましあって陸軍病院でせっせと尽くしている様子を見て、祖父母の世代の子供達の従順さと、声を出せなくする戦争の恐ろしさを強烈に感じました。
友達が目の前で撃たれたり、川のお水でやっとお風呂に入れたり、気がふれてしまって爆撃を花火綺麗と表現する子、見捨てるしかない病床の友達や兵隊さん。先生達も精神的に限界だっただろうと思います。捕虜になる寸前で、自害を選ぶ先生、降参して命を選ぶ先生。言葉に詰まる映像も、伝わってくる心情も辛いです。
敵国に殺されるくらいなら自害を取るのが正しいと考えざるを得ない教育。国をあげて命を軽視するなんて2度と繰り返してはいけないと思います。
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