「山田洋次版『シェーン』には後日譚がある」遙かなる山の呼び声 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
山田洋次版『シェーン』には後日譚がある
WOWOWの放送を録画して観賞。
『家族』『故郷』に続いて倍賞千恵子が「民子」という女を演じ、「民子三部作」と呼ばれている(らしい)。
が、前2作と違い本作では夫は故人である。
どこからともなく流れてきた訳アリの男。
夫亡き後の牧場を幼い息子と二人で守っている女。
『シェーン』をベースにししつつ、高倉健と倍賞千恵子の関係は『幸福の黄色いハンカチ』の前日譚ともとれる。
ロードショウ公開時は、その3年前に公開された『…ハンカチ』に感銘を受けていたので、少々物足りない印象だった。
今観直してみても、北海道独特の酪農家(それも零細)の生活が淡々と描かれていて、物語に派手な起伏はなく、ロードムービーとしてエピソードが積み上げられていた『…ハンカチ』に比べて、地味な印象だ。
高倉健が訪ねてきた兄と再会する場面で、訳アリの一端が見える。
草競馬の会場に警察が現れたことで、高倉健は倍賞千恵子に別れを告げるとともに、過去を打ち明ける。
倍賞千恵子が高倉健に想いを寄せ始めるのに反して、高倉健に追手が迫ってくる構成は、地味ながら見事な作劇。
幼い息子吉岡秀隆が高倉健に心酔していく様子は、正に『シェーン』なのだが、「人を殺したらそれを生涯背負っていかなければならない」とシェーンから告げられたジョーイ少年とは違い、吉岡秀隆少年は高倉健の罪を知らされない。
高倉健が一夜の宿を求めて訪れた最初の日の翌朝と同じように、母から持たされた報酬の入った封筒をパトカーに向かう高倉健に渡そうと駆け寄る吉岡秀隆少年に、高倉健はどんな言葉をかけたのだろうか。
カメラは離れて見つめる倍賞千恵子の後ろにあって、その言葉は聞こえない。
時が経ち、網走に護送される列車での一幕が、『シェーン』にはない後日譚となる。
そして、それこそが『幸福の黄色いハンカチ』につながる前日譚でもあるのだ。
これまで派手なアクションもなく、淡々と語られてきた物語の、このラストシークエンスが熱い感動を与えてくれる。