「日本インディーズ映画の礎が築かれた」裸の島(1960) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
日本インディーズ映画の礎が築かれた
新藤兼人監督1960年の作品。
新藤監督と、設立した近代映画協会の名を一躍世界に知らしめた記念碑的名作。
瀬戸内海に浮かぶ500mほどの小島で、電気もガスも水道も無い原始的な生活を送る、父母、幼い息子二人の家族。
日課は、まず父母が小舟で隣島で水を汲み、それを桶で担いで戻り、朝から晩まで畑仕事。
毎日毎日、同じ事を黙々と繰り返す。
それらをモノクロ映像で捉え、まるで記録映像のよう。
こんな生活を送っていた人々は、少なからず居た筈だ。
そして最大の特徴は、台詞が無い事。サイレントではない。台詞を全て排除しているのだ。
所が不思議な事に、台詞が無いにも関わらず、登場人物の心情、ストーリー展開まできちんと伝わって来るのだ。
印象的なシーンがある。
物語について深く触れてしまう事になるが…
ある時、長男が病にかかり、死んでしまう。
葬儀を終え、日課の畑仕事の最中、母が突然発狂する。父は黙ってそれを見るのみ。
この時の母の悲しみ。父のやるせなさ。
台詞があったら陳腐になっていたに違いない。
削ぎ落として削ぎ落として残ったものこそ、映画が伝えうる最大の表現。
家族には明日も明後日も同じ日が待ち受けている。
この島で、それでも生きていかなくてはならぬ厳しさが静かに深く胸を打つ。
本作以前にも作品を発表し続けてはいたものの、ヒットに恵まれず、経営危機となった近代映画協会。
最期の作品として、製作費500万円の低予算、撮影期間僅か1ヶ月、スタッフ・キャストたったの十数名で島に泊まり込み、文字通り背水の陣で臨んだ。
そして完成した作品は世界60ヶ国で上映されるなど絶賛され、興行的にも成功、経営は存続された。
かくして近代映画協会は、日本インディーズ映画の礎を築いた。