橋のない川(1992)のレビュー・感想・評価
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【人間社会の差別は、人類は平等であるべき大原則に背くもの。この理念に則り、信念を貫く人々の姿を東陽一監督が正面から描く。】
原作:吉井すゑ著「橋のない川」
この、原作を映画化するスタッフたちの気骨を感じた作品。
<非差別部落、小森に住む畑中家の人々他>
・畑中ふで(大谷直子)
・畑中ぬい(中村玉緒)
・畑中誠太郎(杉本哲太)
・畑中孝二(渡部篤郎:今作が映画本格デビューである)
・峰村七重(高岡早紀)・・孝二の従姉妹で想いを寄せている。
・伊勢谷宗則(高橋悦史)・・ふでを想うが二人の境遇が阻んでいた。
・村上秀昭(辰巳琢郎)・・小森の寺の息子。後、水平社の設立に奔走する
「橋のない川」の内容は人口に膾炙していると思われるので、当時一番印象に残った部分のみ記す。
彼らは、旧弊に捕らわれず、人間として誇りを持って生きていた。川の向こうの人々の偏見にも負けずに・・。
小学校の同窓会で孝二は人間に貴賤はないと胸を張って訴える。
機運は徐々に変わろうとしていた。
1922年 全国水平社創立。水平社宣言採択。
孝二は小学校に差別待遇、差別的言動を廃止するよう求め、乱闘に・・。七重の婚約者も含め、逮捕される。
けれど七重は婚約者がその場に居なくても結婚式を挙げると言う。”うち、水平社宣言と結婚する・・”
七重が花嫁姿で凛とした表情で臨む式の屏風は、金ではなく、水平社宣言を記した物であった。
<この七重の結婚式のシーンは高岡早紀さんの美しい花嫁姿と共に、忘れ難い。この後、流れの激しい人の心の川に大きな橋を架ける闘いが始まるのだ>
<1992年5月30日 劇場にて鑑賞>
島崎藤村の「破戒」
以前からずっと読みたかった原作本、ついに読むことができずに先に映画を観る。部落差別問題は自分の身近にないため実感が沸かなかった問題なのだが、現在でも続いている差別は重要な社会問題である。もっと取り上げられるべきなのに、人はその問題を避けようとしている。劇中の会話で出てくる「エタ」とは上の人間が勝手に決めたもの・・・こうした重要なことはもっと映画で掘り下げてもらいたかった。
島崎藤村の「破戒」も劇中の会話に登場するが、この主人公の丑松のような戒めをどう捉えているか、登場人物の中でも様々であることがわかる。やがて素性を隠さないで堂々と取り組むことによって「水平社」誕生へと繋がるのだ。
映画全体として、原作を忠実に再現しようと努力はしているのだが、子供時代のストーリーが冗長部分が多くすっきりまとまっていなかったのが残念。学校の先生の考え方も伝わらず、ある程度の脚色が欲しいところだ。1969年の今井正監督作品も見たくなりました。
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