劇場公開日 1937年8月25日

「万引き家族 〜大江戸長屋編〜」人情紙風船 ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0万引き家族 〜大江戸長屋編〜

2020年11月3日
iPhoneアプリから投稿

Amazonプライムで鑑賞。

貧乏長屋に暮らす庶民たち、ある朝そこに住む老いた浪人が首をくくって死んだと知り、ボンクラな住人たちは迷惑そうに言い合う「なんで首を? 侍なら腹を切るもんだろう」「バカ、あいつが腰にぶら下げていたのは竹光だよ」と(大意)。

一撃で作品全体の世界観が伝わるセリフ。なんつう脚本。不勉強にして歌舞伎の元台本の時点であるのか知りませんが、とにかくうますぎる。。
この会話から、洒落者の髪結い新三と、清貧を地でいく浪人の又十郎を軸に、町人と侍、やくざ者とが絡む悲喜劇が展開していきます。

画づくりはきわめてモダンで、このまま舞台だけを現代の東京に移しても、たぶんまったく古さを感じず、普通に観られるな、という印象。
80年も前の作品のはずなのに、違和感のなさにむしろ違和感を覚えるレベル。
冒頭から、なんでこんなにしっくりくるんだろう? と驚く間もなくドラマに引き込まれました。スピルバーグか。

ストーリーはあまりに身近でやるせなく、でも湿っぽくなく切れ味鋭い。みんな貧乏のせい。
こんなに身につまされるのは、製作された昭和初期が、大恐慌のあおりを受けて現代の日本と似たような世情だったからかも知れません。

追い込まれていく住人たちがだんだんスイミーに見えてくる、お江戸版「万引き家族」。
個人的に又十郎を冷たくあしらう毛利様の言い回しに、我らが首相を連想しました。

映像や音は観られないレベルではないものの、痛んではいますので、今回の4Kリマスター版のように修復を経て、カジュアルに鑑賞されるといいなと思います。
ぜんぜん小難しいところはなく、オーソドックスで普遍的なドラマなので。

これを20代で作った山中貞雄監督は若くして天才と呼ばれたそうですが、今回そりゃ誰だってそう言うよ、普通にと思いました。
オーバーテクノロジー的な映像リテラシーの高さは一体どこから…?
きっと私が知らないだけで、戦前の映画文化はずっと豊かだったということでしょう。

そういう人たちも、才能の芽も、生まれていたかも知らない文化的財産も、あの戦争に数えきれないほど飲み込まれてしまったんだな。

ipxqi