「生と性を貪り、死を受け入れ、輪廻する。重厚かつトラウマな凄い作品ですw」楢山節考 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
生と性を貪り、死を受け入れ、輪廻する。重厚かつトラウマな凄い作品ですw
子供の頃に「カンヌ国際映画祭 パルム・ドール受賞!」を高らかに宣伝していて、年老いた母親を姥捨山に連れていくと言う大まかなストーリーは頭の中に入ってましたが、後に作品を観た時は姥捨山に連れていくと言う本筋以外のエピソードがあまりにもショッキングで"こりゃあ、結構なトラウマだわ"と思って、幾数十年。
未だにいろんな意味で印象的な作品ですが、池袋の「新文芸坐」で今村昌平監督作品の特集上映をされると聞き、劇場では未観賞なので、この機会にと足を運びました。
コロナ影響下の御時世に何処も動員に苦戦しているにも関わらず、場内はソーシャルディスタンスを守りつつも超満員でした。
で、感想はと言うと、改めて凄い作品だなぁと。
ストーリーもそうだけど、出演している役者陣が凄すぎて、今ではここまでの製作は多分出来ないでしょうね。
緒形拳さん、坂本スミ子さん、左とん平さん、あき竹城さん、倍賞美津子さん、清川虹子さんと当時の日本を代表する錚々たる俳優陣がもうどっしりとストーリーに重厚感を与えていて、それでいて何処かシニカルで滑稽。
閉鎖した中に達観した感じを醸し出しています。
また、様々な生物の交尾や捕食などの食物連鎖の描写が上手く表現されていて、生々しくも自然の成り立ちを描かれています。
この辺りの描写が説明だけではクドくなりがちな人間賛歌を巧みに描写していて、素直に自然の厳しさを醸し出している。
蛇の捕食や家の中や周りに蛇がいると言うのは個人的にはちょっと鳥肌モノですがw
山中の寒村を舞台に「齢70を迎えた老人は『楢山参り』に出なければならない」と言う掟に従う、坂本スミ子さん演じるおりんと緒形拳さん演じる息子の辰平の「楢山参り」= 姥捨山がメインストーリーですが、ラストに至るまでの様々なサブストーリーの織り成し方が秀逸なんですよね。
「結婚し、子孫を残せるのは長男だけである」
「他家から食料を盗むのは重罪である」
「齢70を迎えた老人は『楢山参り』に出なければならない」
この3つの村の掟は絶対で厳しい寒村で生き抜く為に守らなければいけないにしても、かなりキツい。
女の子が産まれると売る事も出来るが、男は長男以外は下男とされ、蔑まされる存在。
左とん平さん演じる利助は「くされ」と呼ばれ、その中でも更に蔑まされている。
人並みの待遇は与えられず、悶々とした中で性欲だけは人並み以上で「獣姦」を繰り返し、トラブルの原因となり、後家さんにも"それだけは勘弁してくれ"と断られ、しょんぼりした所をおりんが知り合いでおかねに頼んで筆下ろしをさせてもらう。
もう、赤裸々過ぎて、滑稽を通り越して微笑ましく感じる。
今ではいろんな人権問題で放送は出来ないかと思います様々な作品に出演されている名バイブレーヤー、左とん平さんの真骨頂ではないでしょうか。
また、「他家から食料を盗むのは重罪」と言う掟は物が溢れた現代においてはかなり異質に映ります。
命は食料よりも軽く扱われ、一度目の盗みは制裁を受けるが、家族の者が再度盗みを働くと「泥棒の血統」として一族根絶やしとされ、生き埋めにされる。
食料事情が切迫する中での非情な制裁に見えますが、それ程の状況下と言う事と、その行為を当たり前の様に描いています。
いろんなエピソードが交差していく中、粛々とおりんの楢山参りの日が近付き、その日を決め、楢山参りの当日の描写は凛々と進んでいきます。
誰にも見られてはいけないという掟の下、辰平は背板に母を背負って「楢山参り」へ出発。
会話をする事を禁じ、途中、白骨遺体やそれを啄ばむカラスの多さがどういう場所かを静かに表している。
辰平がおりんを山に置いて帰る途中、舞い降ってくる雪に感動し、その事を告げる描写は切ない。
自身の母親を置き去りにしなければならないと言うのは、悲しくて切なくて、心がキリキリします。
また会話が無い事で余計に胸に響きます。
帰りの途中で隣の銭屋の倅が背板から無理矢理に70歳の父親を谷へ突き落としていたのは無情に思えるがそうする事が掟であり、そうしなければならない。でもその描写がおりんとの別れの対比になっているんですよね。
家に帰ると新しい生命の誕生を瞬時する描写に命は輪廻すると言う事を感じさせる。いろんな意味で人間賛歌です。
この作品の正式な続編ではありませんが、今村昌平監督の長男の天願大介監督の「デンデラ」と言う楢山節考の続編みたいな作品がありますが、こちらはハードな作風に見えて結構なパロディw
でも、主演が浅丘ルリ子さんで、倍賞美津子さん、白川和子さん、草笛光子さんとベテラン女優陣を陣容しているだけに余計にタチが悪いw
個人的には「楢山節考」と違った意味でなかなか語れる作品なので興味があったら、如何でしょうか?
デンデラ~!w
当時のポスターに「人間の大らかな"生と性"を謳う。今村節=笑い・感動・愛・衝撃」と書かれてましたが、ある程度の人生の酸いも甘いもを経験するとこの謳い文句が解るんですよね。
劇中のシニカルな笑いなんて、若い頃には分かんないですよ、アンタw
物凄く重厚な作品でズッシリと重たく、見応えがあります。好き嫌いの好みは分かれる作品ですが、映画好きなら、1度は観とくべき作品の1つかと。
生きると言う事を貪欲に赤裸々に愚直に描いていて、過去にこういう事があったと教科書で見ただけでは分からない歴史の重さを教えてくれます。
…まぁ、予備知識も無く観賞するとちょっとトラウマになりますがw
機会があれば如何でしょうか?な作品です。