劇場公開日 1956年11月20日

「女中さん(田中絹代)が見た、芸者さんと置き屋の人々。」流れる 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0女中さん(田中絹代)が見た、芸者さんと置き屋の人々。

2022年6月28日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

原作者の幸田文が、父親幸田露伴の死後、住み込みで女中として働いた芸者置き屋。
その体験から、華やかそうに見える花柳界と凋落する芸者置き屋の人々を、
暖かく見守る女中の春(田中絹代)の視点で描いている。

幸田文はその女中奉公で健康を損ないたった2ヶ月で仕事を終えた。
春の働きぶりを見ると、健康を損ねるのも納得である。
(経験上、骨惜しみせずに働く家政婦さんは、数ヶ月で倒れる。雑巾掛けを撫ぜるように、するベテランは、チカラを抜かねば続かぬ仕事とわきまえているのだ)

作者の分身である女中の春は、とても美しく聡明。魅力的に見える。
この映画は芸者置き屋が主役の筈なのに、実質的主役は女中の田中絹代である。

ザッと出演者の出演時の実年齢を書いてみます。
まず監督の成瀬巳喜男(41歳)
田中絹代(46歳)
山田五十鈴(39歳)
高峰秀子(32歳・・・7歳年上の山田五十鈴が母親役である)
岡田茉莉子(23歳)
杉村春子(40歳)
賀原夏子(35歳)
栗原すみ子(52歳)
男性陣は、
加藤大介(45歳)
宮口精二(43歳)
中谷昇(27歳)
中村伸郎(48歳)
それにしても皆さん、大人っぽいと言うか、老けている。

置き屋のママ的山田五十鈴には才覚がなくて、好きな男に金を巻き上げられて借金を
作り、家も抵当に入っている。
芸妓に仕込むべきひとり娘(高峰秀子)は見るからに愛想が悪く、芸妓に出たが、
勤まらずに借金だけ残った。

「つたの屋」の芸者はどの芸妓も年下の男に入れ上げていたり、
容貌が地味で年も食った杉村春子など、一本の働きの出来ぬ生涯ヘルプ(?なんて言うか知らないけど、)の半人前芸者だ。

という塩梅の映画です。
勝ち組は、賀原夏子と栗林すみ子。
山田五十鈴の実姉の賀原夏子は高利貸しで、妹に金を貸しても利息をチャアんと取るのだった。初めて観たが栗原すみ子の貫禄に驚く。
ラストで遂に「つたの屋」は資金繰りに困り家屋と土地を売ることになる。
何故か晴々とする女将や娘や芸者たち。

どこか「戦いすんで日が暮れて」
そんな爽快感で、私も心が軽くなるのだった。

琥珀糖