ドリーム・スタジアムのレビュー・感想・評価
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本筋よりも脇の部分に光るものが多い。
◯作品全体
しがないサラリーマンに早逝したドラフト1位プロ野球選手の魂が入り込む、といったストーリー。どこかで見たような設定とトレンディードラマ特有の間のとり方、セリフ回しも相まって重厚感は皆無で、何も喋らないドラ1幽霊・西山京太郎とコメディ色の強い斎藤洋介演じる天使がなおさらチープ臭を際立たせる。カメラワークも役者中心で、シーンごとに映像を切り貼りしているようなイメージが強い。
京太郎の妹、朋江が作った球場に京太郎が姿を現し、朋江たちが京太郎を囲んで喜ぶシーンも感動より「もう完全に『フィールド・オブ・ドリームス』じゃん…」っていう気持ちと、やはりなにも喋らない京太郎がシュールすぎて、残心のごとく長々とズームアウトしていく演出にどういう気持ちで画面を見ていればいいか困る。
ラストはダイエーホークス対レジェンドチームとの対戦で、再び洋介の体に京太郎が入り込み、ホームランを打って成仏する…というオチも含め、なんだか終始ダシの効いてない物語を味わうことになる本作だ。
ただ、光る要素はあった。特に往年のプロ野球ファンが見るとするならば、公開されて25年経った今だからこそ、見どころはたくさんある。
たとえば王貞治の芝居力。ビッグネームにも関わらずサラッと現れる初登場シーンは王貞治のナチュラルな芝居だからこそ、むしろ重鎮感があって良い。京太郎の魂が抜けて成績が落ち、野球を辞めようとする洋介に対して「まだ野球やめないよな」とさりげなく声をかける王貞治も凄く良い。腰を据えて語りかけるわけでもなく、洋介の背中をそっと押すような演技に、誇張抜きで感動した。間のとり方や芝居に既視感しかない主役級の役者たちの間を埋める、いわば「定番の味」にアクセントを加えるかのような芝居。カメラではなく洋介に向けた言葉を表現できる王貞治は、役者としても三冠王を目指せる技量を感じさせる。
物語を通して見るレジェンド選手の活き活きとした姿も当時の中継映像や記録映像とは一味違った見どころのひとつだ。金田正一の「金田正一っぽい芝居」は見ていて嬉しくなるし、衣笠、門田、高木、北別府、大島…ここ10年間くらいで亡くなってしまったレジェンド達がノビのあるボールを投げ、鋭いスイングを見せている…あぁ、たしかにこれは「ドリーム・スタジアム」だなあと、感傷に浸ってしまった。
洋介とともにラインナップに名を刻む90年代後半のホークスメンバーも若々しくて楽しい。村松、秋山、小久保、吉永、工藤…おまけにオリックス元監督の森脇まで。常勝ホークス前夜のメンツを改めて見られるのは嬉しかった。
そしてなにより、天国へ帰る京太郎と天使の魂の映し方が素晴らしい。試合中は閉まっていた屋根が、魂が空へと帰るとともに開いていく。日本初の開閉式ドーム球場であり、竣工から5年ほどしか経っていない福岡ドームの最大の特性を活かしたと言ってもいいこのアイデア。素晴らしいの一言。これほどまで鮮やかに福岡ドームの開閉式屋根を演出に入れ込むとは。
往年の野球ファン同士でお酒でも入れつつ見るのであれば大当たりの本作。物語の本筋ではないけれど、生前の野球に想いを馳せる京太郎のように「あのころの野球」を振り返るのであれば満足できる作品だ。
◯カメラワークとか
・洋介が打席に立つときにオーロラビジョンを映して、その中心に実際の洋介をなめ構図で、左側にピッチャー、右側に洋介をビジョンに映す。こうすることで実際に現役選手と洋介が対峙しているように見せる映像演出があった。ブラウン管越しに洋介がプレーする姿とかも多くあったけど、すごく上手な演出だった。映画用のカメラによるキレイな画面じゃなくて、中継映像として映すことでリアル感が増すっていう。
◯その他
・昔の邦画はいろんなところに懐かしさがあって楽しい。本作ではちらっと映るサンクスが一番印象に残った。
・洋介をスカウティングするところでは、球界の寝技師・根本睦夫の姿が見たかったなあ。90年代ダイエーホークス、隠し玉のようなスカウト…要素としては完全に根本GMだけども。
野球シーン以外が面白い
野球映画にしては珍しく野球シーンの多い映画だった。ただ、正直野球シーン以外のほうが面白い。
序盤、大阪に出張していた住宅営業マンの萩原聖人が東京本社にいる同僚に電話をかけるシーンでは、実に見事な「音」の編集がみられる。
画面奥で同様に東京本社に電話をかける大阪の上司は、萩原の無能ぶりにひたすら苦言を呈す。かたや呑気な萩原は「大阪は楽しかったよ」などとくだらない話を同僚に聞かせる。要するに萩原と上司の認識のすれ違いを示すコメディシーンだ。
ここではカットのテンポに合わせてポンポンと音の主導権が切り替わるのだが、二人の発話内容はギリギリ推測できる。同一ショット内での音の「ピント送り」に関しても同様で、発話は途中でフェードアウトするのだが、なんとなくその後のセリフが想像できる。作り手側が受け手側の言語感覚を信頼しているがゆえに成立した素晴らしいシーンだ。
仕事を終えた萩原が住宅展示場を去るシーンでは、カメラがズームアウトしていき、展示場がどこかの球場の内部に建設されていることが明かされる。ここも非常に視覚的快楽に溢れている。
さて肝心の野球シーンだが、中盤まではそこそこ面白い。おそらくCG処理している箇所も多いのだろうが、萩原のバッティングシーンをハッキリ描いているところに好感が持てる。ダイエーホークス全面協力による圧倒的ギャラリーも見ていてワクワクする。
ただ、終盤のドリームマッチのくだりが酷い。やっぱり映画とスポーツハイライトの撮影文法は全く異なっているのだということが改めて感じられた。
レジェンド級プレイヤーを次から次へとコンパクトに収めていくスポーツハイライト的なカメラワークが、余白込みで画面設計をしていたそれまでのカメラワークと折り合うはずもない。本作最大のサビであるはずのシーンが結果的に最もつまらないという本末転倒ぶり。
映画で野球をやりたいなら、イニングとスコア、そしておおまかな登場人物たちのポジションを何らかの方法で示し続けなければいけない。かといって野球中継のように簡易スコアを画面端に表示し続けるわけにもいかない。だから野球映画は難しいわけだが…
ラスト、萩原が念の籠った特別なバットでホームランを放った瞬間の演出がダサすぎて笑ってしまった。CGの粒子が飛び散るみたいなの、ポストバブルあるいはポスト角川映画って感じがする。
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