「下ネタも純愛も友情も太宰も社会風刺も全部載せ、ギラついた東映イズムが産み落とした地上波放映不可の大傑作シリーズ第2弾」トラック野郎 爆走一番星 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
下ネタも純愛も友情も太宰も社会風刺も全部載せ、ギラついた東映イズムが産み落とした地上波放映不可の大傑作シリーズ第2弾
今日も今日とて日本全国津々浦々を激走する一番星号とジョナサン号。結婚願望に目覚めた桃次郎は写真館で撮影したキメキメのお見合い写真をバラ撒いて結婚相手を見つけようとしていた。そんな矢先トイレが我慢できなくて飛び込んだ姫路のドライブイン“おふくろ”でバイトをしている女子大生瑛子に一目惚れ。彼女にお見合い写真を渡すよう桃次郎に頼まれたジョナサンはバキュームカー雲龍丸のドライバー千秋に間違って渡してしまって・・・。
新潟の山中を走る女子高生を乗せたバスの女性教師を揶揄う桃次郎とジョナサン。当時『愚図』が大ヒットしたばかりの研ナオコをここで起用、ここで桃さんたちが披露する歌が細川たかしのデビュー曲『心のこり』。雲龍丸の助手を務めるのが前年に『ぎんざNOW!』のしろうとコメディアン道場で5週勝ち抜きの初代チャンピオンになったばかりのラビット関根。そしてヒロインは1973年の『みずいろの手紙』を大ヒットさせたあべ静江と当時の流行をごっそり取り入れている貪欲さが圧巻。だいたい『一番星ブルース』も阿木燿子作詞・宇崎竜童作曲。この年の大ヒットナンバー『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』の作家コンビ。正直ここまであからさまにミーハーな映画もなかなかない、というかそれだけ東映がエゲツなかったということでもあります。何気に挿入歌のダウンタウン・ブギウギ・バンドの『トラックドライビングブギ』も最高にカッコいいです。
そしてもっと圧巻なのはもう地上波では放映出来ないレベルの下ネタの応酬。桃さんがモジモジしながら雲龍丸のバルブをうっかり全開にするカットとか今でも全然爆笑です。当時小2だった自分には全然意味が解らなかったネタがてんこ盛りで、今見るとよくもまあこんなものを子供に見せてたなというカットの数々に滲む昭和の能天気に唖然とします。でも当時の我々は意味なんか解らなくてもよかったんですよ。町中に溢れているいかがわしいモノや言葉がよく解らないのは自分達が子供だからだと弁えてましたからね。今見るとセット撮影も豪華でテクニカルで桃さんとジョナサンが連れ便するカット、桃さんにプロポーズされたと勘違いして布団の中でうっとりする千秋と、桃さんと千秋が深い関係になってしまったと勘違いして落胆して号泣する警官の赤塚を俯瞰するカットの斬新さにビックリさせられます。夏八木勲、田中邦衛、山城新伍、由利徹、園佳也子といった銀幕が似合うスター達の競演は眩しいにも程があり、もう懐かしさで何度も何度も泣けてしまいます。この歳になって観ると加茂さくらも全然キュートで可愛いですし、歳を取ってみないと解らない風景もあるんだなと思い知らされました。
で、そんなデタラメなギャグパートの中にちょいちょい辛辣な社会風刺が投げ込まれるのがトラック野郎の真骨頂。本作の裏テーマはズバリ貧困、警察の取り締まりや経営者のクビ切りで最も簡単に路頭に迷うことになる非正規雇用者と自営業者の慟哭が滲んでいます。特にジョナサンを執拗に追う謎のダンプドライバー、ボルサリーノ2のセリフ、“市民なんてどこにいんだよ!?金持ちと貧乏人しかいねえじゃねえか!“は楔のように胸に突き刺さり、この国がここから半世紀何にも進歩していないことに愕然とさせられます。
こんな感じで出合頭で鳩尾に拳をぶち込まれたような衝撃の後に待っているのはスカッと爽やかなクライマックス。これは絶対『トランザム7000』と『トランザム7000VS激突パトカー軍団』と『コンボイ』は平然とパクってるよね?と改めて思いました。96分という尺にこれでもかとネタを詰め込んだカロリーオーバーの娯楽作品。当時のお正月映画ですから一番星号のナンバーが“1976“であるところにも注目、要するに当時の対抗馬が『ジョーズ』だったんですね。
監督、助監督、脚本の鈴木則文/澤井信一郎コンビ、菅原文太、愛川欽也、田中邦衛、夏八木勲、山城新伍、由利徹、園佳也子・・・こんな大傑作を残してくれたレジェンドがもうこの世にいないことを思うと胸が張り裂けそうで、とりわけお亡くなりになる半年前に中目黒で「そこのお二人、映画を観ていかない?」と突然声をかけてくれて自身の監督主演作『沓掛時次郎』を観せてくれたキンキンの笑顔を思い出して正直冒頭の『心のこり』から最後までほぼずっと泣いてました。こんな素晴らしい作品を今の時代にスクリーンで観れたことに感謝しかないです。