トキワ荘の青春のレビュー・感想・評価
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令和の世に見るトキワ荘物語。
金は無く物も無い時代。今から見ればだけど、戦後10年以内の頃ですからねー。そこからは、高度成長期に御座います。人々が金とモノに取り憑かれ、万人参加が前提の競争社会は昭和30年代に幕開け。
何も無いと言う事は、逆に言うと才能や運に恵まれた人にとっては好機。トキワ荘と言う環境は、またと無い切磋琢磨の場であったのですね。
にしても、やたら染みる。何もかもが。昭和ノスタルジーってヤツですか?
25年前の邦画。その後有名になる男優さんが揃っている事。タッチ全般が旧い邦画の流儀に沿っていた事。などは感慨深く眺めさせていただきました。
既に。昭和が「失われた世界の話」になってしまっている事を、改めて感じてしまう映画でした。
染み方が、半端無かった。
良かった。とっても。
【”人が人に対して優しい心を持っていた時代” 梁山泊の様なオンボロ”トキワ荘”から昭和の名作漫画の数々は生み出された。そして、皆、夢を持ち、優しき心を持っていた・・。 】
ー デジタルリマスター版という事で、冒頭にとても素敵なコメントを本木雅弘さんが観る側に優しい笑顔を浮かべながら、話しかける。
現況を踏まえた、とても優しい言葉を・・。ー
■感想
・本木雅弘さんが演じたトキワ荘の兄貴的な立ち位置にいた寺田ヒロオの、自分の書く漫画が時流に乗り遅れていく事を自覚しながも、自らの漫画道を究めようとする姿。
そして、大好きな野球を草野球していた子供に土手で投げてあげるラストシーン。
ー 本木さんの演技が、どこまでも抑制した優しさを湛えている。ー
・トキワ荘から売れっ子になった手塚治虫が、引っ越すシーン。そして、その後の日本漫画を牽引する事になる、若き漫画家の卵たちが次々にトキワ荘に引っ越ししてくるシーン。
石ノ森章太郎、藤子不二雄ペア、赤塚不二夫・・。
ー 滔滔たるメンバーであるが、淡々と描かれる。カット割りも短い。当時のノンビリとした雰囲気が漂ってくるようだ。ー
◆沁みたシーン
・行き詰まり、編集者(きたろう)から、”誰かの模倣の漫画だ、才能がない。”と言われてしまった赤塚不二夫。その編集者が、売れっ子になっていた石ノ森章太郎の原画を取りにトキワ荘に来た際に、さりげなく”彼、こういうの、意外と得意なんですよ・・”とアシスタントとしても使っていた赤塚の原画を見せるシーン。
そして、連載が決まった赤塚が石ノ森の部屋の前で、蹲りながら”有難う・・”と小声でお礼を言う姿。
ー 何気なく、お互いの状況をトキワ荘の住人達はみていたのであろう。ー
・皆で、夕食を取っている時に、売れっ子になっていた石ノ森章太郎と藤子不二雄が編集者達に呼び出され、赤塚も手伝いに・・と席を外し、最後、寺田と森安だけが、部屋に残るシーン。
ー 残酷なシーンをさり気なく取る市川準監督の手腕。ー
・鈴木はアニメーションの道を選び、森安は夢半ばにして”誰にも言わずに”トキワ荘を去り、そして寺田も・・。ー
<過酷な生き残り状況なのに、トキワ荘の住人達は、常に他の住人達を見守っている。その心優しき梁山泊のような所から、戦後の数々の漫画が生み出されていったのだ。
市川準監督が、淡々としたトーンで、熱き漫画を突き進む青年たちの成功と挫折を描いた作品。>
<2021年5月8日 刈谷日劇にて鑑賞>
トキワ荘の漫画家の胎動が心地好くも静かに沸々と感じられる作品です。
作品自体は知っていましたが、ちゃんと観た記憶が無いのと、改めて観たくなって鑑賞しました。
で、感想はと言うと、良いです♪
温かくて優しく。それでいて良い気分にさせてくれます。
流石、名匠 市川準監督が油が乗っていた時の作品。
「東京三部作」と称されるの中の一つであり、何処か小津安二郎作品の雰囲気も漂います。
藤子不二雄先生の「まんが道」を代表する伝説の「トキワ荘」の物語ですが、その中でトキワ荘のリーダー的存在の寺田ヒロオさんを主人公にしているのは珍しい。
まんが道では頼れるお兄さん的に描かれていて、ある程度美化と言うか脚色されている部分はあると思うんですが、それを貶める必要性は全く無く、藤子不二雄先生や石ノ森章太郎先生の目を通して見た寺田ヒロオと言う人物のイメージで良いと思います。
そんな頼れる寺田ヒロオさんが優しくも物静かに描かれていて、それでいて様々な才能の宝庫であったトキワ荘の面々との物語が描かれています。
トキワ荘に集まった若き漫画家志望者たちは、寺田ヒロオをリーダーに新漫画党を結成。だが、若き漫画家達は悩み苦しみもがきながら、漫画道を歩んで行きますが、その中でも徐々に売れる者、なかなか芽が出ない者、漫画の道を諦める、またトキワ荘を去る者と明暗が分かれていく。
早くから売れっ子漫画家となったのは石森章太郎(石ノ森章太郎)、藤子不二雄。
中々芽が出ないのは赤塚不二夫。
劇中にトキワ荘を去るのは森安直哉、鈴木伸一、そして寺田ヒロオ。
勿論、それぞれの漫画人生はその後も続くので、成功・失敗をこの時点で測る事は出来ないけど、それでもそれぞれの明暗が切ない。
トキワ荘の住人であった漫画家達は後の漫画界に多大な功績を残すビッグネームばかりで、その中でも寺田ヒロオさんは自身が理想とする「子供たちに理想を教える漫画」と商業主義に転換していく雑誌社との間に深く思い悩んでいきますが、早くも商業主義の漫画に見切りを付け、早々と筆を折り、その後も人と会わない俗世間との見切りはかなり伝説的でもあります。
実際の人物像を論議する事はありませんが、それでもトキワ荘物語を語る上で欠かせない人物であるのは間違いなしでそんなテラさんを本木雅弘さんが物静かに演じられています。
トキワ荘の住人以外でもよく語られるつのだじろう先生や水野英子先生なんかは有名ですが、面白いのはまんが道等では殆ど語られる事は無かった、つげ義春先生や棚下照生先生なんかの描写は物凄く興味深いです。
シュールリアリズム作品でカルト的人気の誇るつげ義春先生がトキワ荘で出入りしていたと言うのは知らなかったし、初期の青年漫画作品を書いていた棚下照生先生との交流は面白い。
また、石森章太郎さんのお姉さんと交際に近い交流があった描写は作品オリジナルかと思いますが、そういった描写も人間寺田ヒロオ像を膨らませているのが印象的です。
今から四半世紀前の作品なので当時は若手であっても今となってはとんでもないと言うかベテランや凄いキャスト陣。
寺田ヒロオ:本木雅弘、安孫子素雄:鈴木卓爾、藤本弘:阿部サダヲ、石森章太郎:さとうこうじ、赤塚不二夫:大森嘉之森安直哉:古田新太、鈴木伸一:生瀬勝久、つのだじろう:翁華栄、水野英子:松梨智子、手塚治虫:北村想、石森の姉:安部聡子、つげ義春:土屋良太、棚下照生:柳ユーレイ、藤本の母:桃井かおり、娼婦:内田春菊、編集者・丸山:きたろう、寺田の兄:時任三郎
と物凄い。
特に森安直哉役の古田新太さんが良い感じです♪
寺田ヒロオさんの繊細かつ静かな情熱が感じられ、また才能が開花する直前のトキワ荘の胎動が面白いんですよね。
現在の漫画の礎を気づいた先人達の青春物語が心地良く、邦画の名作の香りが心地好く漂う胸に染み渡る様に響く作品です。
初見だが懐かしい映画
2021年映画館鑑賞25作品目
3月8日(月)フォーラム仙台
元になった『まんが道』はまだ読んだことがない
当時は映画館で映画を観る習慣は無かった
公開後ソフト化された際に今は無き英知出版の『ビデオボーイ』というエロ雑誌に今月の一般作の一つとして紹介されこの作品の存在を知った
記念撮影した際の写真が載っていたが寺田ヒロオ役のモックンだけイケメンであとは変な顔の知らない人たちだった
彼らは当時小劇団の若手俳優でテレビや映画にあまり出たことがなかったらしい
それがのちの古田新太であり生瀬勝久であり阿部サダヲであり鈴木卓爾なのだ
初めて観る映画だがどこか懐かしい
もちろん自分が生まれるかなり前の時代の話である
何よりも懐かしいのは水野英子役の松梨智子である
映画監督を辞めて熱海の宿で仲居をやっているらしいが映画界に復帰してくれないものか
本編始まる前にモックンの挨拶
当時を振り返り作品と監督への思い
そして当時の自分の演技に対する後悔
『あの頃。』でも本編前に出演陣(恋愛研究会)が揃って挨拶したが舞台挨拶しにくい昨今こういう試みは悪くない
作品内容は眠くなるような内容だ
平坦でとても静かだ
小津安二郎監督を師事しているのだろうか
自然な芝居に拘ったのかセリフが聞きづらい
藤子不二雄も赤塚不二夫も石森章太郎も作品は大好きなのになぜこの映画を観なかったのか
忘れていた
僕は市川準監督作品が昔から苦手だったのだ
この作品を観てそれを思い出した
漫画家の青春を描いた作品なら『バクマン。』の方が断然面白い
チョイ役で桃井かおりや時任三郎が登場するが無駄遣いだ
心に染み入る
20代の頃に観た時はピンとこなかったのが、30代になって観たらスッと心に染み込んでくるような映画だった。違う国の話かと思うくらい今と生活のリズムが違う。この頃を生きてたかどうかで見える景色が全く違うんだろうな。
日常ですね
まんま、トキワ荘の日々を細切れに見てる感じだったかな。
途中、誰が誰なのか判らなくなっちゃって、少し眠くなりました。
本当に日常って感じで、それは、ある意味、リアルなのかなぁ…。
モッくんの表情が、とても良かったです。
何度見ても泣ける
子どもの頃大好きだった寺田ヒロヲの評伝を読んでから見ると、たまらない。なぜああいう形で人生の幕を下ろしたのか。後輩にやたらと慕われがち(と思ってるのは本人だけで、実は利用されてたりする。でも懲りずに何度も繰り返す)な自分が重なって。
いい人を描いた真面目な映画の礼儀正しい演出タッチ
漫画家を目指す若者が生活を共にしながら確実に成長していく過程を静かにゆったりと描いた市川準監督の抑えた演出タッチが勝る映画。テレビ見学では作者に申し訳なく感じる程、真摯に映画を創作している。ただこの物語の語り口として、これが最も面白いやり方なのかの疑問が残る。昭和30年代の雰囲気は良く再現されているだけに、脚本と演出がもっと主張してもいいのではないか。主人公寺田ヒロオの善人性が突出しているのに対して、他の登場人物の個性が其々描き切れていない。また脇役に桃井かおり、時任三郎と出演しているが、なくてはならないシークエンスにはなっていない。
主人公を奇麗ごとだけではない視点、漫画家仲間から尊敬される人間性と違う一寸人間臭い側面も取り入れたならば深みが出たと思う。映画表現からも、食事シーン、編集者との関係、漫画創作カットと丁寧に描いて欲しかった。
映画的なメリハリは一切といっていいほど排除されています
抑制された演技、会話、演出
特に会話の声は小声で明瞭には発声されない
少ない光量の撮影
映画的なメリハリは一切といっていいほど排除されています
自然であるということ
そこは斬新であるとは思います
当時を再現する細部へのこだわりの集積がそうなさせているのだと思います
誰にしもある若い日々の自己の才能を信じてがむしゃらに働く時代
そして夢が敗れる日も大抵の人に訪れます
そこに共感を感じますが、大昔の巨匠達への思い入れが猛烈になければ、2時間は長い退屈な時間に思えたのも確かです
天賦。
今年2回目の劇場鑑賞。
いや、この作品はスルメ映画だなぁ。歳を重ねた分だけ、主人公の寺田と自身を照らし合わせて、ジリジリした思いで観ている人多いんじゃないかな。
後輩の後塵を拝するということ、ましてや、読者の目という市場の評価で、絶えず自身の才と向き合わねばならぬということ。
藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫…。
こんな人達と比較されたらたまらんなぁと思う。
凡人であることも才能かもな、と。
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