劇場公開日 1935年6月15日

「新作のように観られる素晴らしい修復版」丹下左膳余話 百万両の壺 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5新作のように観られる素晴らしい修復版

2020年10月31日
PCから投稿

28歳で戦病死した天才監督・山中貞雄の『丹下左膳餘話 百萬両の壺』が傑作であることは、もう動かしがたい事実として日本映画史に刻まれている。実際に観てみると、85年前の映画とは思えないくらい、軽妙で愉快でホロリとするエンターテインメントであり、高評価なのも納得だ。

ただ、いかんせんこれまでは保存状態が悪過ぎた。若い世代になればなるほど、白黒映画や時代劇というと大昔のもののように感じると聞く。自分だって生まれた時から映画もテレビもカラーだったのに、映画に興味を持ったことで、音も聞き取りにくく、画面も見づらい映画を、必死になって観ていたわけで、それが万人にとって容易ではないし、古い映画への最適な入口とも思えない。

そして2020年にようやく、この映画が4Kデジタル修復版になった。先んじて観る機会を得たが、本当に今まではいかに苦労して映画を咀嚼しようとしていたのかが如実にわかり、過去の自分が可愛そうになるくらい、画も音も格段に質が向上しているし、欠落していたシーンが復活したりもしている。

何度も観ていて、ストーリーもアタマに入っているが、まるで新作のように、丹下左膳が、お藤が可愛らしく見える。素晴らしい修復版である。

村山章