「お兄ちゃん、戦争まだ始まらないの?〜強烈なコントラストが絶妙な虚無感を生む」他人の顔 Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)
お兄ちゃん、戦争まだ始まらないの?〜強烈なコントラストが絶妙な虚無感を生む
1966年公開、配給・東宝。
【監督】:勅使河原宏
【脚本】:安部公房
【原作】:安部公房〜『他人の顔』
主な配役
【顔に大ケガを負った男】:仲代達矢
【男の妻】:京マチ子
【マスクを作製した医者】:平幹二朗
【看護婦】:岸田今日子
【顔に痣のある娘】:入江美樹
【娘の兄】:佐伯赫哉
ほかに岡田英次、村松英子、千秋実、市原悦子、田中邦衛、井川比佐志、前田美波里
※ビアホール「ミュンヘン」の客に、安部公房と武満徹が紛れている。
1.他人の顔のマスク
超最先端技術(作業は手作業)で、ホンモノと見紛うマスクを作る医者。
「透明人間と同じだ」という。
違う顔になって生まれ変わる、
という夢を手に入れた主人公。
2.顔に痣のある娘と主人公との対比
娘は自ら死を選び、
主人公は人を犯そうとし、殺す。
娘の兄は狂乱し、
主人公の妻は泰然と夫を拒絶する。
このコントラストが切なすぎる。
◆主人公
社会的な地位もあり、豊かな主人公は
不慮の事故で顔に大ケガを負う。
マスクを手に入れ、自分の妻をナンパする。
しかし、妻は当然ながら気付いていた。
夫の芝居に付き合っていただけだった。
◆主治医
主治医は興味半分でマスクを作製する。
看護婦と不倫関係にあり、
妻に気付かれているが意に介さない。
◆美しい娘
左半面はこの上ない美貌。
しかし、反対側は醜い痣。
「お兄ちゃん、戦争まだ始まらないの?」
既存の価値観が無に帰す戦争勃発を願うくらいしか
夢を描けないのだ。
悲しすぎる。
世間の心無い中傷に傷つき、夢を持てず、
娘は死を選ぶ。
死の直前に兄と口吻を交わす。
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かたや、金持ちの優雅な遊び。
かたや、貧しい者の絶望。
※追記
本作鑑賞後、原作を読んだ。
顔に痣のある娘は、作中作『愛の片側』という映画のヒロイン。
なるほど、だ。
本作はこの説明を端折っている。
なお、この娘を演じた入江美樹は、のちに小澤征爾夫人となった。
3.まとめ〜私が気付いてないとでも思った?!
レントゲン写真が喋るようなシーンから始まる本作。
個人的には、
安部公房の世界観を見事に映像化できていたと思う。
また、共感が得られるかは分からないが、
不必要な寄りの画も少なく、ドライなタッチで
つげ義春の作品を見ているような気がした。
◆人間のあさましさや業
◆若さ故の閉塞感と絶望感
主人公と医師がビアボールで、ジョッキを傾けながら
どうでもよい?理屈を捏ね合う場面が象徴的。
マスクは匿名性、無責任、遊び、傲岸を象徴していた。
マスクレスは絶望、切迫、清冽、涙でしかなかった。
救いのない作品。人間の本質を描いていた。
『箱男』、『砂の女』に勝る作品。
強烈に印象に残った。
☆4.5