「私が気付いてないとでも思った?!〜強烈なコントラスト」他人の顔 Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)
私が気付いてないとでも思った?!〜強烈なコントラスト
1966年公開、配給・東宝。
【監督】:勅使河原宏
【脚本】:安部公房
【原作】:安部公房〜『他人の顔』
主な配役
【顔に大ケガを負った男】:仲代達矢
【男の妻】:京マチ子
【マスクを作製した医者】:平幹二朗
【看護婦】:岸田今日子
【顔に痣のある娘】:入江美樹
【娘の兄】:佐伯赫哉
ほかに岡田英次、村松英子、千秋実、市原悦子、田中邦衛、井川比佐志、前田美波里
※ビアホール「ミュンヘン」の客に、安部公房と武満徹が紛れている。
1.他人の顔のマスク
超最先端技術(作業は手作業)で、ホンモノと見紛うマスクを作る医者。
「透明人間と同じだ」という。
違う顔になって生まれ変わる、
という夢を手に入れた主人公。
2.顔に痣のある娘と主人公との対比
娘は自ら死を選び、
主人公は人を犯そうとし、殺す。
娘の兄は狂乱し、
主人公の妻は泰然と夫を拒絶する。
このコントラストが切なすぎる。
社会的な地位もあり、豊かな主人公は
不慮の事故で顔に大ケガを負う。
マスクを手に入れ、自分の妻をナンパする。
しかし、妻は当然ながら気付いていた。
夫の芝居に付き合っていただけだった。
主治医は興味半分でマスクを作製する。
看護婦と不倫関係にあり、
妻に気付かれているが意に介さない。
左半面はこの上ない美貌。
しかし、反対側は醜い痣。
世間の心無い中傷に傷つき、娘は死を選ぶ。
死の直前に兄と愛を交わす。
かたや、金持ちの優雅な遊び。
かたや、貧しい者の絶望。
※追記
本作鑑賞後、原作を読んだ。
顔に痣のある娘は、作中作『愛の片側』という映画のヒロインである。なるほど、だ。
なお、この娘を演じた入江美樹は、のちに小澤征爾夫人となった。
3.まとめ〜私が気付いてないとでも思った?!
レントゲン写真が喋るようなシーンから始まる本作。
個人的には、
安部公房の世界観を見事に映像化できていたと思う。
また、共感が得られるかは分からないが、
不必要な寄りの画も少なく、ドライなタッチで
つげ義春の作品を見ているような気がした。
◆人間のあさましさや業
◆若さ故の閉塞感と絶望感
主人公と医師がビアボールで、ジョッキを傾けながら
どうでもよい?理屈を捏ね合う場面が象徴的。
マスクは匿名性、無責任、遊び、傲岸を象徴していた。
マスクレスは絶望、切迫、清冽、涙でしかなかった。
救いのない作品。人間の本質を描いていた。
『箱男』、『砂の女』に勝る作品。
強烈に印象に残った。
☆4.5