「機会があれば大迫力の映像を劇場の大スクリーンでも是非。」大魔神 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
機会があれば大迫力の映像を劇場の大スクリーンでも是非。
大映京都撮影所製作の特撮時代劇シリーズの一作目。
名前は知ってても映画自体を見たことがないと、各種メディアが茶化してきたせいでヘンな先入観持ってる方も多いと思うが、実際は本格時代劇が骨格の完成度の高い作品。
大映東京撮影所が製作した『大怪獣ガメラ』(1965)のヒットに触発されて同社の京都撮影所が企画したといわれる本作。
海外での映画祭でいくつもの受賞作を輩出した大映京都撮影所には画面作りへの強い拘りがあり、加えて『日蓮と蒙古襲来』(1958)や『釈迦』(1961)などのスペクタクル作品で特撮のノウハウも持っていたことがクオリティの高い作品として本作を成功に導いた要因となっている。
巫女の信夫が左馬之助に手討ちにされる場面は、特撮なのにさながら映像芸術。
従来の時代劇でも効果的なクローズアップや凝ったカメラアングルを多用してきた京都撮影所のスキルが、本作での大迫力の映像にも遺憾なく発揮される。
監督は『眠狂四郎』や『座頭市』の両人気シリーズでもたびたびメガホンを執った時代劇の名匠、安田公義。剣戟シーンは多くないものの、大魔神が現れるまでのドラマ部分を弛緩なく仕上げている。
埴輪をモチーフにした武神像が顔の前に腕をかざして穏やかな表情から鬼の形相の魔神へと一変するシーンが有名だが、体高4.5mと敢えて小さめに設定した大魔神のサイズに合わせて作られた精巧なセットが倒壊する特撮場面は圧巻。
小笹の祈りに応えて武神像が山肌を崩して歩き出す場面もサイズ感に違和感あるものの、かなりの迫力。武神の全身スーツはほぼこの短いワンシーンのためだけに造られており、この辺りにもスタッフの拘りが感じられる。
着ぐるみ以外にも実物大の全身像と腕や脚などのパーツも造られ、人間を摑みあげたり踏み潰す場面もまた迫力満点。ジョン・ギラーミンの『キングコング』(1976)より遙かに凄いと自分は思う。
特撮を担当した黒田義之は大監督の伊藤大輔と稲垣浩に加え、名カメラマン牧浦地志が親戚というサラブレッドの血筋。おまけに本作の撮影監督、森田富士郞とは小学校の同級生でもある。
大魔神の目を電飾にせず役者(橋本力)の目を使ったのも、黒田のアイデア。
本作の成功が切っ掛けで、彼はのちに円谷プロ製作のTV特撮シリーズにも招かれることに。
『ゴジラ』(1954)をはじめとする東宝特撮作品で実績のある伊福部昭が音楽を担当しているが、復古主義者だった彼は『大魔神』というタイトルから神話めいた神々しい内容をイメージして引き受けたら、実際の映像を見て仰天したそう。荒ぶる魔神にふさわしい重厚なBGMを聞かせてくれる。
『座頭市』シリーズにも関わり、本シリーズ全三作の脚本を担当した吉田哲郎が骨太のストーリーを執筆している。
豪華な製作陣に比べ、配役は地味め。
主役レベルは小笹役(成長期)の高田美和と小源太役の藤巻潤ぐらいで、『ゴジラ』の志村喬級の名優は出ていないが、五味龍太郎や遠藤辰雄ら敵(かたき)役も含め、特撮だからと手を抜かずに妥協のない演技を見せている。
大映時代劇に必ずと言っていいほど登場する日本のウィレム・デフォーこと伊達三郎(だってそんな顔してるし)は本作では珍しく善玉。もうちょっと活躍させて欲しかった。
大魔神の目(だけじゃないんだけど)を演じた元プロ野球選手の橋本力はブルース・リーと大立ち回りを演じた『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972)での格闘家役が秀逸。本作でも端役で顔を出してるが気付かなかった。
1930年代前半からの芸歴を誇るベテラン女優月宮於登女(信夫役)は、本作が俳優引退作。貫禄の演技で作品を引き締めている。
「兄の忠文らを救ってほしい」との命懸けの小笹の願いに応じて大魔神は登場するのに、磔けにされた忠文を前に邪魔だと言わんばかりに柱ごと薙ぎ倒し、忠文もたまらず悲鳴をあげる。この場面で一度暴れ出したら人間の力や思惑が及ばない超越した存在であることが強烈に印象付けられる。
阿羅羯磨とも称される魔神と、魔神の怒りを封印する武神像は本来別物の筈。それが一体化して猛威を振るうさまは、善悪二元論的な西洋一神教とは異なる東洋の宗教観を体現しているようにも思える。
過去にTVで何度も観てるが、劇場の大スクリーンで観る本作の迫力は格別。
昨年初めて映画館で観た一作目の『ゴジラ』も凄かったが、同作の印象が「驚嘆」だとしたら、本作の場合は「衝撃」もしくは「戦慄」。
クライマックスでの左馬之助の腹心を壁に捩じ込む場面や、彼を串刺しにした大魔神がこちらに振り向くシーンでは、思わず座席の背もたれに体重がかかる。
TVやビデオで見たことがある方も、機会があれば劇場での観賞をお薦めします。
