劇場公開日 1993年6月5日

「ゴダール、小津を彷彿とさせる芸術映画」ソナチネ フレンチクローラーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 ゴダール、小津を彷彿とさせる芸術映画

2025年10月14日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

難しい

北野映画を完全に舐めてました

率直に言えばマニアックな映画だと思います。同時にハイセンスな作品でもあります。プロット自体は極めてシンプルですが、監督が観客にストーリーを理解させる事を重視していないため、人物相関と展開はしばしば把握が困難になります。そしてバイオレンス映画の体裁をとりながら、暴力は唐突に訪れ、無表情のまま一瞬で過ぎ去る自然現象のように描かれます

この脱構築的な取捨選択は、北野監督の「ありきたりな表現は観客を退屈させる」という芸人精神によるものでしょう。定型を裏切るにはまず定型を知る必要があります。監督は映画をかなり勉強しているはずです。久石譲のメインテーマの反復と、徹底された省略の美学が、作中の死と無常性を浮かび上がらせる逆説的な効果を生み出しています

この映画で長い尺を占めているのは、隠れ家のある砂浜でヤクザたちが遊ぶ一連のシーンです。破滅の手前に設けられた踊り場で、男たちは童心に帰り、無邪気に振る舞う。美しい自然の前で、暴力性と幼児性が並置され、無常観によって同じように包摂される。いささか冗長ではありますが、人間の脆さと美しさが同時に表現される名シーンです。彼らの姿は観客の記憶の片隅に留まり続けることでしょう

フレンチクローラー