「財前教授の総回診です」白い巨塔(1966) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
財前教授の総回診です
言わずと知れた故・山崎豊子の大ベストセラー小説の映画化。
今となっちゃ唐沢寿明のTVドラマの方が有名かもしれないが、本作は1966年度のキネマ旬報日本映画第1位にも選出された名作。
監督・山本薩夫×脚本・橋本忍という顔合わせだけでも面白さは保証付き。
唐沢寿明のドラマ版が放送されていた頃に一度見ているが、改めて見ても非常に見応えあり。
教授選〜誤診裁判までが描かれ、大長編小説をギュッと濃縮した濃密な2時間半!
人の命を救う筈の医学界の知られざる本当の世界。
金と権力に物を言わせた派閥争い、肩書きだけに執着する医師たちのドス黒い思惑が交錯する。
鋭くメスを入れた社会派映画であり、スリリングなエンタメ映画でもある。
三部作の映画として作って、もっとどっぷり見たかったくらい。
50年も前の作品だが、テーマはいつの時代にも通じる。
田宮二郎の熱演に引き込まれる。
ギラギラした野心を持つ財前は、ニヒルな雰囲気の彼にピタリとハマった。
名優たちによるアンサンブルも素晴らしい。
一癖も二癖もある登場人物の中で、純粋に医学者としての心得を忘れない里見助教授(演・田村高廣)との対比が印象的。
教授の座か、たった一人の患者の命か。
名誉か、良心か。
頭では分かっていても、人はそれとは違う行動を取ってしまう。
尚、財前も決して悪人ではない。
だからこそ余計に、人のもう一つの顔について考えさせられてしまうのだ。
ネタバレになるが、裁判で財前は無罪となる。
唐沢寿明のドラマとは異なる。
それは医学界の名誉を守る為。
何人たりとも、この白く大きな世界に立ち入る事は出来ない。
裁判では無罪になったが、財前に突きつけられた、医学者としての謙虚な心構え。
自信過剰だった財前が、本当の意味で良き医学者となるか、見た人に委ねられる。
最後は財前の総回診で終わる。
しかし、名誉欲に取り憑かれ、一度誤診した医師を患者が信頼するとは思えない。
これは医師としても一人の人間としても死活問題。