「街の記憶の物語」遥かな時代の階段を あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
街の記憶の物語
川にまつわる都市伝説の映画である。
横浜の旧市街地、盛り場は大岡川と中村川という2本の川ないしは運河に囲まれている。中村川は1989年にベイブリッジができた際に橋から伸びてきた高速道路に覆われる形となり景観を失った。一方、大岡川は横浜港から桜木町、野毛、日の出町、黄金町と遡るかっては水運で栄えた川である。しかしながら港湾機能の変化や河川の整備に伴いこの映画の時代にはすでにその役割は終わっていた。映画で描かれているような川の利権が巨大な富を生むことはすでになくなっていたのである。
単純に横浜における古い世代と新しい世代の対立を描いているわけではない。時間の軸がねじれている。そもそも登場人物がどの時代に生きていると自覚しているのかもはっきりしない。映画の中で宍戸錠が「戦後10年もたつのに何も変わっちゃいねえ」とつぶやくが10年どころか映画の中ではランドマークタワーも大観覧車も映っているのである。
そうこの映画ではほぼ現代の横浜(とはいえそこから30年近くは経っているが)を舞台にして、そこに街の古い記憶が流れ込む不思議な時間感覚を体験できる。その記憶とは例えば白い男の周りに立ち込める戦後の焼け跡の光景だったり、白いメリーさんだったりする。もっとも白いメリーさんは90年代初頭まで目撃証言があるので(私も見たことがある)この映画の撮影タイミングではリアルタイムの風景だったのかも知れないが。
濱マイク自体が日劇横浜の二階に事務所を構える横浜の都市伝説的な人物設計である。このシリーズは古い記憶と古い伝説を持つ横浜という街の物語でありそこがバックボーンとしてしっかりしているからドラマとしても魅力的であるのだと思う。
きりんさんコメントありがとうごさいます。横浜の川の歌は思いつきませんが、
小説には濱マイクシリーズにも影響を与えたであろう矢作俊彦の二村永爾ものがあります。特に2作目の「真夜中にもう一歩」では大岡川沿いの南太田だの井土ヶ谷だのかなり渋い地名が出ます。参考まで。