修羅のレビュー・感想・評価
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旦那は若いなあ、本当の恋を知らねえ。
原作、鶴屋南北「盟三五大切」(かみかけて さんご たいせつ)。南北と言えば、東海道四谷怪談でもそうだが、幾重にも張り巡らされたプロットの達人だ。まるで落語「持参金」ような筋書きがシリアス調に展開され、その尽きることないどんでん返しに手に汗握る。しかも、人物にしかスポットライトが当たっていないかのような演出が、物語のノワール感を駆り立ててくれるのもいい。
おまけに、はじめ、小憎らしいと思っていた小万と三五に対して、下僕が囚われたあたりから、なんだかどうも二人に情が傾きだしていたのはどういうわけか。それは唐十郎のうまさだろう。最後、「夏祭浪花鑑」の団七のような男ぶりだった。
史実として実際にあった薩摩藩士の公金横領事件が下地にあるこの劇作だが、この映画の中でも、次第に源五兵衛が女の色香に迷った間抜けにこそ、すべての元凶があるのだとその責任を問いたくなってくる。その身勝手ぶりも、中村嘉嵂雄のうまさだろう。「無一物中無尽蔵」いい言葉だ。その教養がありながら、女に溺れる。げに恐ろしきは男女の仲よ。
この世界を手元に置いておきたくてDVDを買った。ただ、小万の首を表紙のデザインにしてしまったのはネタバレ感が強すぎていただけない。
芝居の面白さ、脚本の上手さ、演出の個性が一つになった演劇映画の力作
「薔薇の葬列」のユニークさには正直、面白くも困惑したが、この松本俊夫作品には驚嘆した。稀に見る力作であり、作者の個性と力量に感動もした。背景を黒く塗り潰して、登場人物の身体だけに光を当て、純粋に芝居の面白さを追求している。この簡素な舞台空間を最後まで押し通すと退屈させるのではと危惧したが、物語の面白さが上回り、映画の世界観に終始入り込むことが出来た。何より脚本の上手さ、演出の厳しさがある。グロテスクな展開、時代風刺、そして人間悲劇を分かり易く描いた力量を最大の美点とする映画である。制作資金面の事情の有無は知るところではないが、舞台劇の映像化として成立しているし、映画としてもまとまっている。ただ同時に、ここまでの徹底振りと割り切り方が広範囲な評価を得ることは難しいと思われる。
憎悪と畏怖と狂気の乱舞の如き復讐劇。それに独特なモンタージュで風刺を効かせた松本演出の個性。今までに出会ったことのない日本映画の個性的な力作に見入る貴重な映画体験をする。
1979年 5月7日 三百人劇場
凄まじいモノクロの映像美
日本の実験映画の草分け的存在の映画監督、松本俊夫氏による、
鶴屋南北の題材を大胆にアレンジした物語となっている映画「修羅」。
1971年の公開当初、お客がまったく入らず、興行的には大失敗をした
作品ながら、その映像美と凄まじい地獄絵図のような目をそむけたくなる
展開には、今でも根強いファンがいる作品です。
劇場で見るチャンスがなかなかありませんが、ぜひ、一度、観てください!
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