座頭市牢破りのレビュー・感想・評価
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顔と心
軽い気持ちで見始めたら、めちゃくちゃ重たい一発を食らわされました。 もうショットがいちいちやばいし、ユーモアやエロスを交えつつも、本質を突いた重たいテーマによって貫かれている。90分とは思えない程、内容の詰まった素晴らしい作品でした。 特に人物を中心に据える宮川一夫のカメラ、山本薩夫の行き届いた人物描写に息を呑みました。 折檻をする西村晃の妙に白い顔、後に再会した時には顔の白粉を落としているお忍。 「人は見た目ではなく、心」と言う市とは裏腹に、眉のない朝五郎の妻、ニヤけ面の盲人たち、額に大きな傷の親方、農民たち、お代官、子分たち…画面に映る者達の顔はその人の社会的身分や人柄を克明に物語っていました。
なんと山本薩夫!!
念願の独立プロ・勝プロを設立した勝新太郎の第一回作品。監督には社会派監督として名高い山本薩夫で、座頭市シリーズ3回目の宮川一夫の撮影。ちょっと紛らわしいのが、前作の親分同様、富蔵親分を遠藤辰雄が演じている・・・
序盤から登場する刀を持たない侍・大原秋穂(鈴木瑞穂)が浮いているような気もするが、百姓に収穫のイロハを教えている姿も面白い。その大原がやがて農民の心をとらえ、いなくてはならない存在となってゆく。そして新たに十手預かりとなった朝五郎(三國)の手によって、謀反の疑いありとして囚われの身となるのだ。尊皇派という疑いだったが、どちらかというと天照大神を信仰する自然主義者。そんな彼の基本は非暴力。市と正反対だ。
この作品の面白さは、善と悪が環境次第で移り変わるものだという点。三國演ずる朝五郎も最初はたとえ博打ですった者であろうが百姓のために出す金を惜しまず、座頭市も思わず惚れこんで任侠道に活路を見出したりする。市が富蔵をやっつけた後、半年くらいで豹変。また、市にしても富蔵に雇われた百姓を斬ってしまったり、片腕を切られた仁三郎(細川俊之)の恋人・志乃(浜田ゆう子)も女郎に貶められたりと、人は常に変わってゆく様を描く。もっとも訴えたいのが、権力者に近づいてしまうと、その権力におぼれるということだろう。皮肉なことに非暴力の大原が暴力的な市に助けられるというのも・・・大地を汚してしまったな・・・
三國連太郎はこの頃から咳をするのが上手かった。
誰かが居なければ理想は実現出来ぬ
シリーズ16作目。1967年の作品。
賭博も無いつまらぬ村に来てしまった市。
悪代官と結託して唯一賭博を仕切る悪徳親分の元で厄介に。そのお世話の礼として、村のもう一人の親分・朝五郎の元へ使いに。しかし実はこれ、揉め事を起こそうとする悪徳親分の罠であったのだが、大事には至らず、朝五郎の百姓を大事にする人柄に惚れ込む。
村にはもう一人、百姓と共に農業に生きる元藩士・大原がおり、剣の道の虚しさを諭す。
が、いよいよ両親分の対立は避けられなくなり、市は朝五郎を押し留め、悪徳親分を斬り、何処へ去る…。
それから数ヶ月後、剣の道から離れ、卑しい按磨の世界で生きていた時、朝五郎に関する信じられない話を聞く…。
勝プロダクション第1回作品。
その並々ならぬ意気込みは開幕から伝わってくる。だって、メインタイトルよりも前にデカデカと“勝プロダクション”!
作風もこれまでと違う。これまではどちらかと言うと、B級娯楽活劇、スター俳優によるプログラム・ピクチャー。
しかし本作は、監督に社会派の名匠・山本薩夫を迎え、重厚な人間ドラマのタッチ。人の二面性、非暴力、百姓の奮起を訴える。
スカッとするような居合シーンも無い。流血などの暴力描写。
宮川一夫によるリアルで重苦しく、拡張高い映像。
再び村に戻ってきた市が見たのは、信じられない光景。
田畑は干からび、百姓は苦しみ…。
あの尊敬に値する朝五郎は悪徳親分になっていたのだ…。
さらに悪代官と結託し、邪魔な大原までを排除しようとしていた…。
演じるは、三國連太郎。
前半と後半の別人のような演じ分けはさすが!
三國と勝新の二大スター共演、二人が同じ画面に映るシーンだけでも超贅沢!
周りも名優揃い。
前作『~鉄火旅』は東の“水戸黄門”が出演していたが、本作は西の“水戸黄門”。西村晃がネチネチした悪代官。
鈴木瑞穂は“先生”と呼ばれるに相応しい人柄。
何が朝五郎を変えたのか。
劇中詳しくは描かれない。
が、あれこれ憶測は立てられる。
対する相手が居なくなり、縄張りを広げられるようになった。
それ故権力者から力を与えられるようになった。
自分の中から、卑しく醜い欲が滲み出始めた。
本人は悪代官の元で仕方なく“二足のわらじ”を履いたと言ったが、本当の顔は卑しく醜い方だったのかもしれない。
市に必死に弁明する。
市は見逃す。
その直後、子分を率いて命を狙う。
機転を利かして命拾いした市は哀しくも朝五郎を斬る。
その時の朝五郎の絶叫と絶命の顔…!
百姓と共に大原救出に向かう市。
敵を居合で斬る。
それを見た大原は…
「また大地を血で染めたな…」
しかし市は…
「あなたが居なければ…」
非暴力。大地に根を張って生きる。
理想だ。
でも、その理想を実現する為には、誰かが血を流し、犠牲になる。
百姓や堅気の人たちが理想を実現させ生きていけるのなら、あっしは剣を持った道を行きやす…。
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