劇場公開日 1952年4月17日

「明らかに世界的な映画遺産です」西鶴一代女 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0明らかに世界的な映画遺産です

2019年9月5日
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鑑賞方法:DVD/BD

強烈な映画体験でした
明らかに世界的な映画遺産です

このような長回しの手法は今では当たり前で現代の私達には驚きはしないし、うかとすると感動もなくスルーしてしまうかも知れない
けれども当時初めてこの映像を観た人々は仰天したに違いない
その後の世界中の映画界が真似をしているのがその証拠だと思います

物語のレベルの超絶的な高さは、元より井原西鶴の原作に依るものですが、それを的確に構成して映像作品にまとめあげた力もまた超絶的です

美術の素晴らしさは映画の域を遥かに超えています
隅々まで神経の通った、これもまた超絶的な美術です

カメラと照明もまた陰影のある白黒の特性を最大限に引き出した映像を美しい構図や斬新な構図で捉えています

田中絹代の演技は文句無しに日本女優のナンバーワンであることを示しています
撮影時43歳
娘から熟女、そして老女を演じわけるだけではありません
堕ちる所まで堕ちた老女の悲惨の人生をその顔で見事に表現していました

ファムファタルという言葉があります
男を破滅させる運命の女という意味です
お春という日本のファムファタルを彼女が体現してみせているのです
彼女は自己に係わる全ての男を破滅させ、自らまで破滅させたのです
お春は何も悪くないのです
罪はただ美しいだけ、愛に正直なだけなのです
女性の美は単に顔の美醜や体のスタイルだけではない、所作や言葉遣い、子供の頃から受けてきた躾や教育まで含まれることをその全存在で演じています

大昔の女性が如何に人間として扱われず悲惨な状況であったかに驚くかも知れません
しかし、それは程度の差はあれども今も大して変わることないと思えます

夜の街でガールズバーにしつこく誘う女性達の姿は今も昔も大差ありません
隣に女性がつくお店などでの様々な女性の話が思いだされます
若い娘達は確かに綺麗だけれどもその話は大抵どうでもよく詰まらないものです
が、スナックやパブなどで聞く熟女のお姉さま方の虚実わからない過去のお話には引き込まれることが多いものです
彼女達はこれからも一体どのような運命が待っているのでしょうか?

お春程のファムファタルでなければ、みなきっと小さな幸せを掴んでいると信じたいものです
もし彼女達の誰かが正真正銘のファムファタルだったらとっくに、この自分が破滅していたはずです

かなり昔、ある重役秘書の美しい女性がその職を解かれ、子会社の一般事務員となったことが身近にありました
彼女には何も問題もなく、ただ付いていた実力派重役が本社から転出したに過ぎないのです
若く美しい美貌を持ち、颯爽として様々なVIPの大量のアポイントメントを切り盛りする凛とした姿は大勢の男性陣の憧れだったのです
その彼女が小さな段ボール箱を抱えて悄然と役員室を去る後ろ姿が本作を観ていて突然思い出されました
何もできず、小さな台車を用意してあげ一緒に殺風景な業務用エレベーターで無言で降りたのでした

果たして彼女は今どうしているのでしょうか?
首を打たれた若党の勝之介のように、彼女の幸せを願わずにはいられません

あき240