「観ている自分にも自然と力が入ってしまう、見逃せない名作」黒部の太陽 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
観ている自分にも自然と力が入ってしまう、見逃せない名作
あの幻の映画『黒部の太陽』を観られた事は私の映画人生にとっても新しい財産になった気がしています。
少々大袈裟と思われるかも知れませんが、敗戦の日本から脱出し、高度経済成長の時代へと日本が向かう中で、工業化をひたすら押し進め、日本の未来の発展は工業製品の製造に掛っていた時代で、その状況下では、益々重要の増える電気消費の為には、ダムを作り水の貯蔵は不可欠であった当時、どれ程の犠牲を強いても、戦後日本の立て直しには、ダムの建設を最優先しなければならないと考えた、当時の大手建設業界が一丸となって、国家の威信を掛けて取り組んでいた大事業、その過程をこの作品が再現する。
これはドキュメンタリータッチのドラマとしてあくまでも描かれている点が素晴らしい!
これを単なる記録映画とせずに、あえてドラマとして描く中で、巨匠熊井啓監督が当時の社会の在り方や、日本の将来を様々に考察し、撮影をされた事に大きな価値が有ると私は思うのだ。そして、そんな大作映画が生後のこの時期に制作されていた事実を観て、驚嘆した。
現在では昨年の東日本大震災が起きてしまい、原発の放射能汚染被害も起こり、不安の材料であり、諸悪の根源の様な存在として敵視されている原発であるけれど、この映画を観ていると一番に感じるのは、一人一人の人間の大きな犠牲の上に現在の日本の姿と言うものが存在していて、良い悪いと言う議論は不毛で、時代を長く経た未来でこそ、そのプロジェクトの真価が問われるのであり、その時代の只中にいる多くの人々は懸命に目の前に置かれている仕事が、未来に生きる人の為になるとひたすら信じて、励んで来られた、そんな名も無き大勢の犠牲者の見えない努力と犠牲の果てに、当たり前のように、日々変わらぬ快適な生活を享受している私達だけれども、過去の人々が創り上げた基盤が出来ている事は本当に有り難い限りだ。
この映画が制作されていたあの時代は5社協定などが厳しく存在しており、中々自分たちが作りたい映画が出来なかった時代であり、俳優の自由に好きな作品に出演する事が不可能だった時代に、三船敏郎と石原裕次郎が自ら制作に加わる事で実現した力作だ。
CG合成が出来ないあの時代で、この迫力ある作品は、やはりロケセットで、現実の現場で多数撮影が行われていたからこそ、描き出された迫力と言うものだ!
今月初めに亡くなられた我が国のバイプレイヤーの大御所である大滝秀治もまだ若くて良い芝居をしている!そして出演者の殆んどが、今では亡くなられてしまい、存命の俳優さんは極僅かであるけれど、出演者の皆様が、とても活き活きと見事に輝きを放ち役に取り組んでおられるのも、素敵な事だ。機会があれば、この様な過去の名作との出会いをたまには持って置きたいものだ!只只ありがとう!と感謝で胸が一杯になる!ラストの宇野重吉と北林谷栄のダムの上に立つ老夫婦の無言の芝居が脳裏に焼き付いた!