「団塊の世代が育った風景がこれなのだ そしてまたその精神世界もそうなのだろう」キューポラのある街 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
団塊の世代が育った風景がこれなのだ そしてまたその精神世界もそうなのだろう
昭和37年の川口の光景
古い白黒写真で見ることができる街並みそのものが、本当にそんな貧しかった時代があったことを動く映像で伝えてくれる
団塊の世代が育った風景がこれなのだ
そしてまたその精神世界もそうなのだろう
吉永小百合17歳、役は中学三年生だから15歳
本当に美しく可憐だ
本作は三つの物語が絡み合って進行する
一つ目は、彼女の物語
彼女が貧しい生活の中で挫折しそうになるのを乗り越え新しい時代を目指す
映画だからこうなるが現実には彼女は堕ちていき行き着くところまで墜ちる運命が待っているとまで暗示させる
二つ目は、彼女の父の物語
父は古い世代で横暴であり、社会主義的なものの考えを受け入れない
けれども結局組合の力で職の安定を得る
三つ目は、朝鮮人の父と日本人の母の家庭の物語
帰還事業で帰る父と姉そして弟
ラストシーンは東北線にかかる二車線の車道と両側に歩道を持つ真新しい立派な跨線橋が真っ直ぐに遠くまで伸びているのを撮す
これからの日本はこの橋の上にいるあたらしい世代のものでありその成功はこの橋のように約束されていること暗示させる
帰還事業で列車に乗り込む朝鮮人集団も、新国家建設の意気と希望に満ちている
そう未来への希望に満ち溢れたものだ
しかし、21世紀の我々はその後どうなるのか
その結末までを全て知ってしまっている
古いと批判された父の世代は高度成長を成し遂げ現代に至る豊かな日本にしてくれたことを知っている
本作では青少年だった団塊の世代は今では70代になろう
彼らは学生運動の騒乱を起こし、その挫折を経て、社会主義革命の夢を見果てぬ夢として胸の奥に仕舞いみ、その実未だにくすぶらせていることを知っている
そして北朝鮮に帰った朝鮮人達の悲惨な末路、それにまして朝鮮人の夫についていった日本人妻達やその子供達の筆舌に尽くし難い辛苦を舐め尽くして未だに苦しんでいることを知っている
なのに団塊の世代と、それに洗脳された若い世代の人達まで、この映画のマインドセットのまま21世紀を見ているように思えてならない
彼らの説くお花畑な平和思想は、本作の帰還事業によって新国家建設がなると希望に燃えている朝鮮人達のシーンに重なるのだ
ともあれ映画には何の責任もない
むしろ、その時代の空気を見事に切り取っている佳作と言える