「押井監督の最高傑作はこれでは・・・」機動警察パトレイバー the Movie 壊れ園さんの映画レビュー(感想・評価)
押井監督の最高傑作はこれでは・・・
押井守監督の最高傑作として「うる星やつらビューティフルドリーマー」の名があがるのを度々見たりするし、パトレイバーでも2を推す声を見るが、ストーリーの起承転結やシナリオの内容・登場人物のキャラクター性とシナリオの絡め方など、やはり「劇場版パトレイバー」の1こそが一番秀逸だと思えてしまいます。
他の作品はその作品・そのキャラクターでなくても、やろうと思えばシナリオが当てはめられ蓋然性が乏しいのに対して、この作品のシナリオの、このパトレイバーのキャラだからこそのピッタリ当てはまる感覚、ここがずば抜けていると思うんです。
零式との最終決戦でのワイヤーを使った技法も漫画版であやとりをするほど指先の器用さが売りのイングラム1号機+野明の組み合わせによる、正面から戦っても勝てないはずの相手に対する技術の勝利と考えると、見事なカタルシスだと思えて来ます。
人の可聴範囲以外の音源・共鳴・共鳴連鎖・OSに対する信頼性などなどウィンドウズ95が出る6年前の作品、PC8801やPC9801、X68000などしか個人ユーザーがパソコンに触れる事がなく、ほとんどの家庭にパソコンすら無かった時代にOSの概念と、その危険性、更にはウィルスが拡散するという恐怖すらをも冗長の説明も無しに組み込んでいることに舌を巻きます。
バビロンプロジェクトに関しても反対運動や周辺の動きに関しては他の作品で見受けられますが、箱舟という核の存在・箱舟の構造やパージ出来る設定など、終盤の胆になる部分をサラリと加えるところは秀逸。
シゲさんの下宿での昭和むき出しの雑多な部屋やシゲさんや遊馬のだらしない恰好、人形の入ったガラスケースやしゅう酸ヤカンの描写、松井・片岡刑事のコンビが取り壊し予定の帆場の住居跡地を回る際の、真っ黒なシルエット背景の町の中の、露出過度な輝くような白の太陽光の描写、(「ビューティフルドリーマー」でも見受けられる水面や太陽光を白光として表現する、この絵面こそ、押井監督の描く昭和のノスタルジーの発露だと思う(昭和の方が最近より夏の気温が低かったはずなのに、なぜか昭和の夏の方が太陽光がまぶしくて、やはり露出過度に白く、反面建物は真っ黒い影だったように記憶している人が多いと思う)
(この絵こそがアニメで作った最大の理由ではないかと思うほどに、二人の刑事の彷徨う場面が名場面に感じます。)
これらの地続きな古い世界観=実生活リアリティと、前述のOS関連の話などの今見ても違和感の無い近未来的な設定を約35年前に完成させた先進性は如何ほどだったのか。
現代の人ならば基礎知識が無くても、ネットで調べるという手法がありますが、当時は一部の業務として携わる人を抜けば「草の根ネット」しかなく、シナリオを固定するに至れるレベルの、必要な知識を得るための努力は如何ほどかと思いを馳せると、他人事ながらその作業の膨大さ必要な時間の長さに感服します。
せっかく香貫花を呼び出して零式を出したのに暴れ方が足りなかったのは、たしかに消化不良。
零式のデザインはあまりにもカッコいい。他のロボットバトルものとの相違として、必要な作業用としてのロボット=レイバーの立ち位置からすれば、ガードロボットのデザインや零式のデザインは先進的すぎて実用性と乖離しているのは分かる。でも、劇場版なんだから集客や子ども向けにカッコいいロボットデザインでもいいじゃない!っていうのとのジレンマが見えそうな部分が特に好き。
HOSを蔓延させたことでの篠原重工の立て直しや社会的な責任の取り方に関しての記載がまったくないのも、若干の消化不良。
(映画の終わりとしてはエンディングの場面で全く問題ないとは思いますが)
見ていない人は損をすると思う1人の監督の最高傑作(と個人的に強く推したい)、素晴らしい作品です。