「本作のような綿密な取材に基づいた経済ドラマや映画はもっと観たいですね。」華麗なる一族 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
本作のような綿密な取材に基づいた経済ドラマや映画はもっと観たいですね。
神保町シアターさんの特集企画『生誕百年記念 小説家・山崎豊子 華麗なる映画たち』(2024年10月12日(土)~11月1日(金))もいよいよ最終週。
本日は『華麗なる一族』(1974)を鑑賞。
『華麗なる一族』(1974)
山崎豊子氏原作の映画化7作目。
監督は『白い巨塔』(1966)に続き山本薩夫監督。
211分にもおよぶ長編作ですが、関西有数の都市銀行のオーナー頭取が業界再編・合併に抗い権謀術数をめぐらす経済ドラマの緊迫感、一族発展のための閨閥(政略結婚)、その家族たちの愛憎劇のストーリー構成がとにかく見事。固唾を飲みながらアッという間の3時間半でしたね。
小説の連載が1970年3月~1972年10月。現実では1971年に第一銀行と日本勧業銀行が合併したぐらいで、それから1990年の太陽神戸三井銀行合併まで17年間都銀13行体制が維持されたことを考えると、氏の先見性、慧眼には驚きますね。ましてや「小が大を飲む」ジャイアントキリングを図るために、自身の関連会社、子息も利用するところも実に面白いです。
家族の愛憎劇も「ぼんち」「女系家族」などの氏の作品を見続けると大阪船場商人話を大きく発展、飛躍させていることがうかがえますね。2007年日曜劇場でドラマ化、こちらも高視聴率を獲得しましたが納得ですね。
キャストは長男・鉄平役の仲代達矢氏の重厚な演技は安定と安心感がありますが、ベテラン佐分利信氏が自社発展に執着する鉄平の父大介・頭取役を老獪に演じており、氏の代表作と言っても過言ではないでしょう。
また一族に潜り込んだ執事兼大介の妾相子役の京マチ子氏。豊満な肉体とあいまって実に風格、たたずまいがリアルでしたね。
田宮二郎氏の『白い巨塔』財前五郎とも通じる手段を択ばない知性ある悪役、大蔵大臣役の小沢栄太郎氏、大同銀行専務役の西村晃氏も本作品でもお見事でした。
本作のような綿密な取材に基づいた経済ドラマや映画はもっと観たいですね。