「見えるけど存在しない陽炎を存在証明にする冒頭から面白い」陽炎座 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
見えるけど存在しない陽炎を存在証明にする冒頭から面白い
鈴木清順監督の大正浪漫三部作の二作目。
前作「ツィゴイネルワイゼン」のほうが世間の評価はいいし、自分もそう思う。作品の「良さ」は僅差ではあるが「ツィゴイネルワイゼン」だ。しかし「面白さ」という意味では本作のほうが上かなと思う。
わけが分からないといった類のレビューがチラホラあるけれど、そんなことはないだろう。
そりゃあ普段テレビアニメしか観ない人などには難しいかもしれないけれど、内容、ストーリー共にどちらかといえばわかりやすく親切に作られていた。少なくとも「ツィゴイネルワイゼン」よりは。
松田優作演じる松崎が玉脇を中心とした愛憎劇に巻き込まれ、次第に夢か現か定かではない幻想に飲み込まれていく話だ。
大正浪漫とはそれ以前の生活習慣が残る中に入り込んだ西洋的な思想との融合だ。あなたとあなた、夫婦になりなさいと結婚していた時代から自由恋愛への変化。つまり本作はラブロマンス映画であるのだが、明るく前向きなストーリーにするつもりがないあたりが曲者だ。
前作「ツィゴイネルワイゼン」もそうであったように、美化することなく滅びを描く。
本作に至っては冒頭から滅びの雰囲気が全開で、それこそが浪漫三部作の魅力なのではないかと二作目にして思った。
本作の本当の主人公ともいえるような中心的存在の玉脇。この人、本当にムカつくんだよね。こんなゲス野郎そうそういない。
こんな男のどこがいいんだと思うけれど、お金はあるし自信家だからまあモテるんだろうね。
そんな玉脇が死んでくれて嬉しかった。
玉脇が陽炎座から去るときに銃口に手紙がくくりつけられているのを見て思わずガッツポーズ。
魅力的な悪役とかよく聞くけど、こんなに憎たらしいだけの悪役ってすごい。