「本作での水との葛藤が5年後のTV特撮『マイティジャック』(1968)にて生かされていますね。」海底軍艦 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
本作での水との葛藤が5年後のTV特撮『マイティジャック』(1968)にて生かされていますね。
「午前十時の映画祭14」。
先週の『妖星ゴラス』(1962)に続き、今週は『海底軍艦』(1963)をTOHOシネマズ新宿さんにて鑑賞。
『海底軍艦』(1963)
本多猪四郎(監督)×円谷英二(特技監督)の名コンビ再び。
元大日本帝国海軍の残党が日本の復権のため戦後18年に渡り南方の島で密かに建造していた海底軍艦『轟天号』と1万2千年前に海底に沈没、地熱エネルギーを利用した海底王国を築き再び地上に返り咲こうとする『ムウ帝国』の攻防を描いた戦争アクション映画。
イギリスの『サンダーバード』(1965)以前に艦首に巨大なドリルを配した『轟天号』のデザインはシンプルですが出色。
特技監督・円谷英二氏の特撮も本作でも見どころ多く、丸の内のビジネス街の陥没崩壊シーンはミニチュアセットも精巧で迫力がありましたね。
特に本作では「水」の特撮演出に腐心していたようで、縮尺できない水の表現との葛藤が至るところで見受けられ、本作でのトライアルが5年後のTV特撮『マイティジャック』(1968)にてスローモーションで水の質感・粘度を演出、確実に本作の経験が次回作で生かされています。
キャストは何といっても帝国海軍の残党・神宮司大佐を演じた田崎潤氏。貫禄、声量ともにこういった士官・将校役は適役。東宝特撮には欠かせない上原謙氏、平田昭彦氏、佐原健二氏も名演ですが、ムウ帝国の長老を当時37歳の若さで演じた天本英世氏の怪演は白眉。ムウ帝国もエリザベス・テイラー主演『クレオパトラ』(1963)を意識していたようで600名のエキストラを配して、さすが映画黄金時代、贅沢でした。怪竜「マンダ」の登場に関しては『妖星ゴラス』の「南極怪獣マグマ」同様に蛇足感はありますが、当時それだけ怪獣ブームと観客のニーズがあったのでしょうね。
ストーリーも頑なに大日本帝国復権に固辞する大佐が、最後に世界平和のため『轟天号』を利用する心変わりが戦後18年経った当時の世相を反映している点も感慨深い作品でしたね。
「海底2万マイル」ではクラーケンと呼ばれる大ダコが出てきます。クラーケンはノルウェーの伝説の海の怪物で、大ダコか大イカだと言われています。
マンダは、それを真似て伝説の龍を登場させたものだと解釈してます。
「妖星ゴラス」のマグマよりは意味があったかなと。