「激愛 ~ある漢の生きざま~」オルゴール 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
激愛 ~ある漢の生きざま~
黒土三男の映画監督デビュー作で、長渕剛の映画初主演作。1989年の作品。
この二人の大ヒットTVドラマ『とんぼ』の世界観を継承した作品で、キャストも役柄は異なるがほぼ続投。
ファンからは賛否あるようだが、『とんぼ』を見た事ない自分としては、これはこれで悪くはないヤクザ映画だった。
出所した一匹狼のヤクザ・勇治。性格は荒々しいが、根っからの悪者ではなく、妹のきよとは仲良く喧嘩し、その恋人で舎弟の翔には慕われ、行きつけのアンティーク店のオルゴールの音色を聞くのが好き。
かつての兄貴分・阿南から命を狙われており、その日もチンピラに襲撃され、一般人の巻き添えを出す。不良刑事からのマークがより一層厳しく。
そんな勇治には、唯一気掛かりが。ムショに入っている時に元妻との間に産まれた幼い息子・蓮の存在。会うのは禁止されているが、遂に居場所が分かり、会いに行く…。
アウトローな主人公像、殴る蹴る、銃弾で脳天貫通、殺しなどヤクザ映画らしいシーンもあるが、本作はバリバリのヤクザ映画と言うより、哀切漂うヒューマン・ドラマ。
何処か自分を痛め、苦しめているような勇治の生きざま。
妹や舎弟とのやり取りはほんのひと時のユーモラス、安堵感。
そして、父と息子。
不器用ではあるが、我が子への勇治の眼差しは温かく、優しい。
幼稚園前でのびっくりのサプライズ(あれ、ご近所や幼稚園の先生たちからクレーム無かったのかな…?)、ジープに乗って海辺をドライブ…。
蓮は決して恵まれた家庭環境とは言えない。
元妻である母は家に男を連れ込み、その隣の部屋で蓮は耳を塞いでも眠れない。
友達もおらず、車のおもちゃを走らせて、近所をぶらぶら。
勇治は元妻を激しく問い詰める。元妻の方も悲痛。
誰を責め、誰が責められる簡単な問題ではない気がした。
強いて言うなら、最も可哀想なのは蓮。
そんな息子と不器用な父親に訪れた束の間のひと時。
父子水入らず…。
しかし、ヤクザ者の生き方は変えられない。
阿南の嫌がらせは遂に悲劇を…。
翔が殺され、それを目の前で目撃したきよはショックから記憶喪失に。
ここで黙ってちゃあ漢じゃねぇ!(長渕じゃねぇ!)
我が命を懸けて、我が人生を懸けての仇討ち。
目的を果たした勇治は再び逮捕される。
幼稚園児の列と遭遇。その中に、蓮の姿…。
勇治が乗ったパトカーの後を蓮が追う。
それに気付いた勇治は…。
全てを失ったと思われた男にも、まだ愛する者が居た。
死を伴うほどの痛々しく、哀しく、激しく、熱い生きざま。
ラストシーンは図らずも感動を呼ぶ。
本作の前にも幾つかの映画やTVドラマに出演していた長渕だが(本作の前の映画出演作は寅さん!)、やはりこういう役柄やイメージこそ長渕!
主演だけではなく、原案・音楽・主題歌も担当。主題歌「激愛」他劇中歌はどれも胸に染み入る。(何だかんだ言って長渕の曲は好き)
それにしても、哀川翔の若い事若い事! 今ではすっかり兄貴だが、貴重な舎弟時代!