「寅さん、お疲れ様でした。」男はつらいよ 寅次郎紅の花 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
寅さん、お疲れ様でした。
"男はつらいよ" シリーズ第48作。
Huluで鑑賞(HDリマスター版)。
ついにこの時がやって来てしまった…
殆どの場面で、座っているか、寝ているか。声にも肌にも張りが無く、ふとした表情が本当に辛そうでした。
これが最後だと分かっているからこそ、セリフのひとつひとつにこみ上げるものがあって、何度も画面が滲みました。
俳優・渥美清、渾身の遺作。心に刻みました。
渥美氏の本作への出演は最早奇跡に近かったと云う。医師には「出演したら死ぬ」と言われていたそうな…。それほどまでに深刻な病体を圧してまで出演したのは、車寅次郎役への相当な思い入れと役者魂故だったのかなと想像しました。
苦しそうな渥美氏の様子を見るにつけ、山田洋次監督は「もしかしたら本作が最後かもしれない」と考え、マドンナにリリーを選びました。リリー役の浅丘ルリ子も日頃から渥美氏の病状を聞き及んでいて、山田監督に「寅さんとリリーを結婚させて上げて欲しい」と直談判したそうです…
そんなこともあり、キャストやスタッフの本作にかける想いには相当なものがあったのではないかなと思いました。それを示すように、「ぼくの伯父さん」から語られていた満男と泉ちゃんの恋愛模様に一応の決着がつけられるなど、シリーズ集大成と言えるストーリーが展開されました。
寅さん自身の物語には、「叶うことならばシリーズを続けたい」と云う山田監督の意向があったからか、いつも通りの終わり方になってはいたものの、結果的には寅さんの永遠不変なイメージを維持することが可能になった素晴らしいシーンだと思いました。タクシーの中でリリーに言ったセリフに心震えました。一度はああ云うこと、言ってみたい…
私は兵庫県の出身です。今でも神戸の近くの市に住んでいます。阪神・淡路大震災当時、私はまだ0歳でした。記憶は全くありませんが、両親の話や学校の授業などを通して、どれほどの被害をもたらした災害だったのかを学んで来ました。
冒頭で寅さんが被災地でボランティアをしているシーンがあったり、神戸から寅さんを訪ねて来たパン屋の主人が寅さんへの感謝の気持ちを語ったり…。フィクションの中とは言え、最も被害の大きかった長田地区を寅さんが訪れていたと云うことに、なんだか嬉しくなってしまいました。
ラストシーンは実際に長田で撮影されていて驚きました。久しぶりに当地を訪れた寅さんに駆け寄って来た人々に向かって言った労いの言葉「本当に皆様ご苦労様でした」―これが寅さんの、渥美清氏の、最後のセリフとなりました…
渥美清の死去を受けてシリーズが終了しても尚、ここまでの人気を獲得し続けているのには、車寅次郎を見事に体現した渥美氏の功績が大きいと、改めて思いました。
全ての作品に、生きていく上で必要なことがぎっしりと詰まっている…。人生まだまだこれからですが、今の時期にこのシリーズと出会うことが出来て本当に良かった…
寅さん、ありがとう。
そして、お疲れ様でした。
※鑑賞記録
2020/08/11:Blu-ray(4Kデジタル修復版)
※修正(2022/08/06)