男はつらいよ 寅次郎心の旅路のレビュー・感想・評価
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意欲作だと思います
ロケーションが初の海外という一作。
寅さんは飛行機に死んでも乗りたくないくらい嫌いなはずだったのに、このあたりはあっさりスルーして渡航してしまうのは面白い。ウィーンという場所がありきの撮影で、内容的にはあまり評価されていない作品のようですが、バブル絶頂のころ、海外が身近になった時代の作品ということで、またそれも世情を反映していていいと思います。
寅さんはほとんどホテルにこもっていたのがちょっと残念で、露天行商の一つでも挑戦してみてもよかったかもしれません。マドンナは竹下景子だけれど、もはや年の差が親と子くらい離れている感じで、失恋というには無理があったかな。でもドナウ川川辺で人生相談に乗ってあげるのは寅さんならでは。最後に柴又の実家に、竹下景子ではなく柄本明が訪問して、写真を届けることで実家の面々が寅さんの行動を知る、っていう展開もおもしろいです。
神父様に対し「御前様」と手を合わせるところはクスリと笑いました。
寅さんが、バブルの絶頂期に教えてくれたこと
1989年8月公開作品、第41作
時はバブル真っ盛り、ほぼピークの頃
タイトルの心の旅路とは、1942年のマーヴィン・ルロイ監督の名作映画「心の旅路」からの由来であると思います
第一次世界大戦の戦傷で記憶喪失に陥った男とそれをなんとか思い出さそうと努力をする女の映画です
つまり心の病が本作のテーマです
この年は♪24時間働けますか?~なんて、CMが話題になりました
バブルの超好景気で、やればやるほど面白いくらいに成果が上がる時代でした
だから残業代だって青天井で支払われ、サービス残業なんてどこにもなかったのです
本給より残業代の方が多かったこともあったぐらいです
上役連中は毎晩接待だとか口実つくって連日連夜、会社の経費で飲み歩いていました
我々下っ端連中は経費では飲み歩けませんが、残業代で懐は暖たかいので、連日深夜まで残業してから、みんなで繁華街に繰り出して飲んで騒いではタクシーで未明に帰宅したりの日々でした
まさに♪24時間働けますか?のCM の栄養ドリンクが必要な時代だったのです
その一方で、過労死とか、劇中で博が言うように、心身症とか、鬱病とかも社会問題となってきていた年でもあったのです
寅さんとは真逆の真面目一方の人はこうなってしまった時代だったのです
本作では坂口がそうなった姿を紹介しています
そしてもうひとり久美子もそうです
当時は一部上場企業でも女性は結婚退職の強要が良くありました
今ならものすごい大問題になり社会的バッシングを受けるでしょう
彼女は、それが原因で全て嫌になって、仕事も結婚も投げ捨ててウィーンに来て孤独に暮らしているという設定です
金持ちの日本人未亡人のマダムに出会わなければ転落真っ逆様だったでしょうし、今はヘルマンという青年と結婚するうな、しないような宙ぶらりんです
演じる竹下景子と同じ36歳としたなら、ずるずると数年も過ぎさればどうなるとも知れません
寅さんが現れなければ数年後には、帰りたい気持ちで気が狂いそうになっていたでしょう
本作は、この二人の心の旅路の物語だったのです
バブル絶頂期ですから、海外旅行も大ブームでした
それもそれまでのグァムやハワイ、米国西海岸といった近場ではなくて、米国なら東海岸、そしてヨーロッパです
それもパリ、ロンドン、ローマだけから、その先ウィーンまでが人気になりました
この間までの中国人を上回るような羽振りの良さで、シャンゼリゼのお店で棚の端から端まで買う「棚買い」という言葉まで生まれました
ウィーン市長が寅さん好きで云々は後付けの理由でしょう
オーストリア航空が成田ウィーン直行便を開設したのは本作の直前のこと
金を持っている日本人をどんどんウィーンにきてもらいたかったのです
日本人に一番人気のある映画シリーズのロケ地にすれば効果は抜群間違いなしでしょう
映画も、テレビドラマも、バラエティー番組だって、バブル時代は海外ロケがやたら多かったのは確かです
寅さんシリーズも同じことかも知れません
山田監督もそんな申し出があったら、「嫌だけど
、しかたないなあ~」と実は喜んでその話に乗ったのではないでしょうか
とは言ってもそこは山田監督
理由がなければウィーンまで寅さんを行かせられません
柴又とウィーンが似ているなんて、無理やりな理由ではありません
ウィーンは誰もが知る芸術の都
モーツァルトやシュトラウスの音楽、クリムトなどのウィーン分離派の絵画、シェーンブルグ宮殿などの様々な様式の建築
寅さんとは真逆の人が憧れる街でしょう
それはどんな人?
ということで、このテーマが選ばれて、物語が定まって行ったのだと思います
もちろん、「第三の男」とか、「会議は踊る」のオマージュもあります
特にマダムの死別した夫の遺影は「第三の男」のオーソン・ウェルズのプロマイドです
シーンの切り替わりの時、一瞬だけマンドリンの音色がしてニヤリとします
結末は、もちろん心の旅路を終えた二人は元気を取り戻します
寅さん?
フラれたショックで、やっぱりしばらくボケーっと寝込んでしまうのですが、すぐに元気になって商売の旅に出て行くのです
会社なんて自分がいなけりゃ潰れてしまうのか?
寅さんの劇中の言葉です
このあとバブルは下り坂となり、遂には崩壊してしまいます
やってもやっても成果は上がらす
給与水準は切り下げ、残業はセーブ
果てはサービス残業なんてことまで横行しだします
それが20年以上続いて今の世の中になったのです
自分の身体や精神の健康が一番大事です
会社の為にそれを壊してまで働くことなんてないのです
会社は最後まで面倒見てくれる訳はないのです
最後に残るのは家族だけです
寅さんがバブルの絶頂期にそれを私達に教えてくれたのです
蛇足
劇中で坂口が美術館で見る絵画2点はブリューゲルでオランダの画家です
調べてみるとウィーン美術史美術館に所蔵されていました
数年前にブリューゲル展が日本で開催されて、鑑賞できました
男はつらいよのシリーズも この頃になると 山田洋次監督が何を描きたいのかなあ と思ってしまう。
寅さん作品の中では佳作と思う。竹下との絡みはあったけれど、ふられる...
寅さん作品の中では佳作と思う。竹下との絡みはあったけれど、ふられるシーンが露骨だ。
あれでは寅さんが可愛そうだ。それより柄本とウィーン美女との話がもっと見たかった。
彼はあのまま別れてしまったのか?気になるところだ。
その柄本もウィーンに来た途端、寅さんを邪魔者扱いするなど、手のひら返しが露骨である。
とはいえ寅さんはいつもの寅さんで海外でもそれは変わらないのがよかったです。
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