劇場公開日 1987年12月26日

「寅さんの名言ナンバーワンの元ネタ」男はつらいよ 寅次郎物語 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0寅さんの名言ナンバーワンの元ネタ

2023年4月26日
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鑑賞方法:VOD

1987年12月公開、第39作

寅さんの映画は第7作まではプログラムピクチャーとして数ヶ月毎に不定期での公開でした
それが尻上がりに興行成績が上がり、1971年12月公開の第8作から盆暮れの年2回興行になります
野球でいえば不動の4番の主砲となったわけです
それが1985年12月の第36作まで14年間も続きます
1986年夏の寅さんの映画は一回お休みになったのです

理由は「キネマの天地」の公開がお盆に入ったからです
松竹大船撮影所50周年記念作品なのですから致し方ありません
しかし山田洋次監督作品ですし、渥美清さんも脇役で出演されているのであたかも全編が寅さん映画恒例の冒頭の夢シーンだったかのような趣向になっています

そこから第37作は同年12月、第38作は翌年1987年8月、そして同年12月には第39作の本作が順調に公開され元の年2回興行に戻ります

ところが本作の次の第40作は1988年12月公開になり、また夏の公開がお休みになります
今度の理由は山田洋次監督が別の作品
「ダウンタウン・ヒーローズ」を公開することになったからです

次の第41作は翌年1989年8月公開、第42作は同年12月の公開となり、また元の年2回興行ペースに戻ったかのように見えます

しかし、寅さん映画のお盆興行は第41作が最後になってしまうのです

この頃すでに渥美清さんの体調が思わしくなくなっていたのです
だんだんと劇中の立って歩くシーンが減っていきます

第41作がロケ地がウィーンになったのは時代がバブル景気だったこともありますが、お盆興行はこれでお仕舞いという打ち上げ的な意味合いだったのだと思います

そして第42作からは満男がメインの物語となっていくのです

その意味でも本作はその満男の物語が始まる最初の発端が終盤にあるターニングポイントの作品だと言えます

マドンナは秋吉久美子
本作公開当時33歳
薄幸に疲れた巡回美容部員の風情が見事に表現された演技力をみせます

物語は観ての通り「母を訪ねて三千里」です
冒頭の夢シーンで寅さんが家出するいきさつを紹介して、秀吉が母を訪ねていく過程で、寅さんもまた母のこと、家族のこと、子供のこと、人生の幸せとは何かを考えるという物語です
だから「寅次郎物語」なのです

隆子は淡路島で生まれたという設定です
舞台は和歌山、吉野、伊勢志摩と移って行きます
地図で確かめて下さい
淡路島から伊勢志摩へ一直線に並ぶのです

つまり今は不幸のどん底だと思っていても、本当は幸せへと一直線に続く一本道の途中なのかも知れないのです

とうさん、かあさんと呼び合う喜び
小さな子供が二人の間であどけない寝顔を見せる幸せ

「大事な人生なのに粗末にしてしまった」と泣き崩れる隆子に寅さんはこう声をかけます
「大丈夫だよ、これからいいこと一杯待ってるよ、な」
そう言われて隆子はこう返すのです

「そうね、生きててよかった、そう思えるようなことがね」

そう、これが本作の終盤の寅さんの名言の元ネタだったのです

「生まれてきてよかったなって思うことが何べんかあるじゃない、そのために人間生きてんじゃねえのか」

この言葉が公開当時に、32年ものスーパーロングパスとなって、2019年の第50作につながるなんて誰が想像したでしょう

ラストシーンは伊勢の二見ヶ浦です
道開きの神・猿田彦大神を祀る「二見興玉神社」があります
海に浮かぶ、しめ縄で強く結ばれた大小二つの夫婦の岩が、夫婦円満や縁結びに効くパワースポットとして有名です

「そのうちお前にもそういう時が来るよ」と、道開きの神様が寅さんの口を借りて満男にそう言われたのかも知れません

素晴らしい余韻が残る名作だと思います

あき240