「鞍馬天狗は殿様」男はつらいよ 寅次郎と殿様 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
鞍馬天狗は殿様
シリーズ19作目。
OPの夢は、寅さんが鞍馬天狗に。妹と再会も束の間、命を狙う悪党と大立ち回り。
さて、何故今回OPが鞍馬天狗かと言うと…
まずは、序盤の騒動。
5月。立派な鯉のぼりを上げたとらや。そこへ寅さんが帰ってきて、満男の土産におもちゃの鯉のぼりを。慌てて鯉のぼりを隠そうとするも、バレて寅さん不機嫌。
そして、ファンの間では有名な“トラ”。誰かが野良犬に“トラ”と名付け、何故かとらやで面倒見る事に。言うまでもなくそれを知って、寅さんプッツン。
犬に自分の名前が付けられりゃあ誰だっていい気分ではないが、いい年して野良犬みたいにフラフラしてる寅さんも…。
旅先は、四国・伊予大洲。
そこで寅さんは、時代錯誤なヘンな老人と出会う。
気に入られ、招かれた先は、お城みたいなお屋敷。
ヘンな老人ではなかった!
控えおろう、控えおろう!
この方を何と心得る。
大洲城18代目の城主、世が世なら殿様であらせられるぞよ!
演じるは、往年の大スター、“アラカン”こと嵐寛寿郎。
アラカンと言えば、鞍馬天狗。OPの夢はアラカンへのオマージュ。
喋り方も立ち振舞いも時代劇チックで浮世離れした現代の殿様を、面白可笑しく、お茶目に演じている。
尚、アラカン主演の“鞍馬天狗シリーズ”は、戦前~戦後、製作会社を幾度も変えながらも46本作られ、寅さんに継ぐ邦画屈指の長寿シリーズである。
この殿様に仕える執事に、三木のり平。
殿様に頭上がらず、寅さんに怪訝を示し、アラカン/渥美両名優と絶妙な掛け合い。
さすがの名喜劇役者っぷり!
寅さんは殿様からある頼み事をされる。
それは、亡き末の息子の嫁にどうしても一目会いたく、探して欲しい。
分かってるのは、今は東京に住んでて、名は“マリコ”ってだけ。
安請け合いするが、殿様は本気だから、さあ困った。
柴又に帰ってから、“マリコ”捜し。それも、まず近所の家から一軒一軒訪ね歩いて。
…でも、実は寅さん、その“マリコ”にすでに会っていた!
大洲で殿様に会う前、馴染みの宿屋で、何か訳アリそうな一人旅の若い女。
ほんの一晩だけの親交だったが、寅さんの紹介でとらやを訪ねて来る。
名は、鞠子。
奇遇にも同名だが、何と何と何と!亡き夫が大洲の人で、義父は殿様みたいな人…!
居た!
(この辺のご都合主義はご勘弁を…)
マドンナは、真野響子。寅さんの世界にぴったりの日本美人。
念願叶って会えた殿様は、涙ながらに息子に尽くしてくれた感謝を伝える。
義父と亡き息子の嫁の対面はわだかまり無く、温かく。
当然、寅さんは鞠子に一目惚れ。
そんな時、再び殿様からお願いが。
大洲の屋敷で鞠子と“父娘”として暮らしたい、鞠子の再婚相手として寅さんを…!
寅さんファンならオチは大体察し付く。
鞠子は東京で仕事し、自立した女性。
まだ心の中に夫は居るも、それも含めて理解してくれる男性との将来を考えていて…。
寅さんも殿様もフラれたが、自分で自分の幸せを見出だした鞠子の選択は正しい。
個人的にもう一つ注目点は、殿様の長男役に東宝特撮作品でお馴染み、平田昭彦。
博士役が定番だが、本作でのニヒルでイヤミなインテリ役もハマっている。
前作前々作とシリアスなテーマ続いたが、本作はこれぞ寅さん!とでも言うべきストレートな喜劇。
SPゲスト、アラカンの妙演も相まって、カラッと明るく、楽しく!