男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼けのレビュー・感想・評価
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ぼたんの花
シリーズ17作目。
48作ある中でも、最高傑作の一つに挙げられる。
まずOPの夢は、家族を喰い殺した人喰い鮫に車船長が闘いが挑む…!
本作の前年に大ヒットした『JAWS』のパロディー。
たまにこういう大ヒット映画のパロディーもある。
続く序盤エピソードは、
満男が小学生に。
寅さんもちょうど帰って来て、叔父さんの真似事をしようとご祝儀を包む。
ところが学校で、満男が寅さんの甥ってだけで笑い者に。
勘弁ならない寅さん。
笑う方も悪いが、これまで笑われるような事をしてきた寅さんにも否がある。
せっかくのめでたい場がいつもながらの喧嘩に。
寅さんは憂さ晴らしに酒を呑みに出掛ける。
とある飲み屋。そこで寅さんは、無銭飲食しようとしたしょぼくれた爺さんと出会う。
きっと家に帰っても居場所が無い可哀想な爺さん…。
同情した寅さんは、とらやに連れ帰って暫く世話する。
ところが!この爺さんが横柄でワガママし放題!
とらや一同、怒り爆発寸前。
さすがに寅さんが注意すると、この爺さん、とらやを宿屋と勘違いしていたようで。
迷惑掛けたお詫びにと、ある事をする。
画用紙に筆で落書きのような画を描き、これをある店に持っていってくれ、と。
渋々持って行ったら何と!その落書きみたいな画が7万円で売れた!
実はこの爺さん、人間国宝級の日本画家の大先生。名は池ノ内青観。
一生遊んで暮らせる!…と、ウハウハの寅さん。
しかし、先生はすでにとらやを去り…。
「何で帰した!?」…お金や画を巡って、またもや大喧嘩。
青観を演じるは、大名優の宇野重吉。
前半のだらしない爺さんぶりから一転、滲ませる威厳さはさすが。
宇野氏の息子は、これまた名優の寺尾聰。
度々親子共演しており、本作でも。
故郷である兵庫県たつの市を訪れた青観。
そこでばったり旅の最中の寅さんと再会。
寅さんが加わった事で、青観の堅苦しい帰郷は呑めや唄えやのどんちゃん騒ぎに。
寅さんは気っ風のいい芸者・ぼたんと出会う。
明るく、ノリ良く、寅さんも「所帯持とう」と気軽に冗談言えるほど。
勿論本作のマドンナであり、いい女の魅力を存分に発揮した太地喜和子は多くの賞を受賞した。
故郷の町を一人歩く青観は、昔馴染みらしき老女と会う。
演じるは、まるで映画のような壮絶な人生を送った岡田嘉子。
まるで自身の人生を振り返るような台詞が印象的。
柴又に帰ってもたつの市での贅沢が抜けきらない寅さん。
そこへ、ぼたんが訪ねて来る。
再会に喜ぶ寅さんだが、ぼたんが東京を訪れたのには訳が。実は…
以前、男に200万もの大金を騙し取られたというぼたん。それを少しでも帰して貰おうと。
普段は明るく振る舞ってるが、本当は誰かに苦しい胸の内を明かしたいくらい苦労を背負っている。
にしても、その男が本当に悪どい!
貧乏人から苦労して貯めた大金を騙し取り、自分も会社が潰れて無一文だが、法の網の目をかいくぐり、贅沢三昧の暮らし。訴えようにも、法を完全に縦にしている。
シリーズにこれまで登場した事ないくらいの悪人。
世の中、本当にこういう悪人が居るのだ。
金や法が絡み、無知な寅さんにはどうしてやる事も出来ない。
だけど、何とかしてやりたい。例え、ぶん殴ってでも。
そんな時寅さんは、思い付く。向かった先は…
青観の家。画を描いてくれと頼み込む。
が、青観は金の為に画は描けないと断る。
それを聞いて寅さんは…。
本作はズバリ、お金。お金があれば幸せなのか…?
貧乏人にとって、お金を稼ぐ事は一苦労どころではない。それこそ、200万なんて大金(本作は1976年だから、今だったらどれほどの大金だろう…?)、見た事すら無い。
「200万って積み上げたら、富士山くらいの高さになるのか?」…とは、お金に疎い寅さんを表したユニークな台詞。
確かにお金はあった方がいい。貧乏人は喉から手が出るほど最も欲している。
でも、本当にそれが全てか…?
お金に代えられないものだってある。いや、実際、ぼたんの周りにはあった。
寅さんやとらや一同。赤の他人の自分の問題を、こんなにも親身になって心配して良くしてくれる人たちが。
単なる綺麗事…と、言いたければ言えばいい。
それでもやはり、こういう人情に溢れた人たちが居て欲しい。
ラスト、ぼたんの元に思わぬ“プレゼント”が。
それは絶対売らず、一生の宝物にし、依然お金の問題を抱えながらも、いつも通りの自分たちの生活を送る。
寧ろそれは、お金に打ち勝ったように思えた。
このラストもいい。
色んな意味で、シリーズ最高傑作の一つと言って過言ではない。
とてもよかった
日本画の大家という飛び道具の登場で、いつもとは雰囲気が違ったけど、構成が素晴らしかった。これまでのシリーズはエピソードの継ぎ接ぎ感があったのだが、一本の物語としてのグルーヴがあった。また日本画の先生がチャーミングで、彼に寅が無茶を言うのもどうかと思うのだが、先生のミラクルな対応とぼたんちゃんの嬉しそうな表情が素晴らしかった。
光男が変なヘルメットを被っていたり、仮面ライダーの角が生えたようなバンドを頭に巻いていたのに、誰もがスルーしていた。
冒頭はジョーズのパロディで、飲み代が二人で3千円くらいで、物価が大分上がってきた。
絶頂期なんですかね、このあたり。17作、これもいいわー。 宇野重吉...
レビューなんてしたくない
最高だよ。本当に最高だよ。
いつか父と二人、柴又帝釈天にお参りに行ったことを思い出しながら観ていた。その頃私は小学生か中学生、埼玉から自転車で3時間かけて江戸川を下っていたのだ。帝釈天参道の団子屋で休憩をしたときに、父が寅さんの話をしていた。その頃の私はアクション映画が大好きで、こんな映画なんて見向きしなかった。ただその団子屋のあんこがとっても甘くて美味しかったことを覚えている。
それから何年も経って、私は今でも映画が大好きで、ふと「寅さんを観てみたい」と思うようになった。そのきっかけが何だったのかは思い出せない。〈次に観たい映画リスト〉に寅さんを書いたのはたぶん1年程前だろう。それでもやはり他の映画に興味が惹かれ、リストの寅さんにはずっとチェックマークが書かれないままであった。
初めて観る寅さんはとっても粋で、本当に不器用な人であった。でもそんなところに周りの人間たちは惹かれている。それは観客である私たちも同じだと思う。
映画に出てくる日本の風景はどこを切っても美しく、描かれる人間は全員が全員魅力的である。どこまでも人間的なのだ。
高倉健の「駅」で観たとき、倍賞千恵子が本当に綺麗だと思った。この映画でも、変わらず綺麗です。
つらつらと書いたけど、レビューなんてしたくない。上手く言える筈がない。もっと色んな人に観てほしい。この映画を観て「ああ、なんか良いわね、こういうのも」って言える女と一緒になりたい、とか思った。以上。
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