「【“真っ赤な牡丹の絵”寅さんの漢気が見事に表現された逸品。宇野重吉演じる絵画の大家の飄々とした姿や芸者ぼたんを演じた太地喜和子の魅力が横溢した作品。今作はシリーズ中でも実に粋な逸品なのである。】」男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【“真っ赤な牡丹の絵”寅さんの漢気が見事に表現された逸品。宇野重吉演じる絵画の大家の飄々とした姿や芸者ぼたんを演じた太地喜和子の魅力が横溢した作品。今作はシリーズ中でも実に粋な逸品なのである。】
■寅さんはとらやの皆と、満男の小学校入学祝をしようとするがいつものように喧嘩して、駅の飲み屋で呑んでいる。そこで出会ったルンペン風の初老の男が無銭飲食で捕まりそうになる姿を見て、代わりに金を払いとらやに連れ帰る。
だが、男はとらやを宿屋と思っていたが、勘違いに気付きとらやの皆が自身の鰻代まで払ってくれた事を知り、一枚の絵をさらさらっと描き、寅さんに神保町の店で売って来てくれと頼む。
寅さんは、渋々その絵を持って行くがナント7万円で売れ、ビックリ仰天。その男は日本絵画では高名な画家、池ノ内青観(宇野重吉)だった。
そして、寅さんは青観と彼の生地である播州龍野で再会し、市役所の人達(中には、寺尾聡がいる。親子共演である。)に市内を連れまわされ、夜は座敷に呼ばれる。
そこで、出会った明るい芸者のぼたん(太地喜和子)と、意気投合して飲み明かす。
そして、寅さんはぼたんに軽く“そのうち、所帯を持とうな”と冗談を言って別れるが、ぼたんは且つて悪徳な男(佐野浅夫)から200万円を騙し取られていた。
ぼたんは、東京まで出て来て、タコ社長と共に男に抗議をしに行くが軽くあしらわれる。
怒った寅さんは、池ノ内青観に”でっかい絵を描いてくれよ。”と頼むのだが、断られる。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作は、寅さんと池ノ内青観との交流を軸に、不幸ながら笑って暮らすぼたんの関係性と物語構成がとても良き作品である。勿論、青観を飄々と演じた名優宇野重吉の姿と、残念乍ら早逝されたぼたんを演じた太地喜和子のひまわりの様な明るさと、抱え込んでいる悔しさ、哀しさを讃えた演技が見事な事も、作品に余韻を与えている。
・又、登場シーンは僅かだが、波乱の人生を送られた昭和初期の名女優である岡田嘉子さんが、青観と何か関りのある役で出演しているのも風情がある。詳しくは語られないが、推測するに、播州龍野の旧家のお嬢さんで青観と若き時に恋仲だった人ではないかなと思いながら観ていた。
<私がこの作品がとても好きなのは寅さんシリーズの中でも、二人の男(寅さんと青観である。)の漢気が、タイプは違えど実に粋に描かれているからである。
寅さんが、播州龍野を再び訪れた時に、ぼたんが寅さんを家に招き、見せた大輪の真っ赤なぼたんの画。勿論、青観が描いたモノである。
ぼたんは、売れば高値間違いなしの画を”絶対、譲らへん!”と言い、その姿を見た寅さんは青観が住む東京に向けて、暴言を詫び手を合わせて感謝の念を示すのである。
名優が集った、素晴らしき作品である。勿論、脚本を書いた山田洋次監督の手腕には、他の作品と同様に脱帽する作品でもある。>