「伊丹式葬儀マニュアル入門編」お葬式 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
伊丹式葬儀マニュアル入門編
"午前十時の映画祭13" で鑑賞(4K版)。
端的に言えば、葬儀の始まりから終わりまでのお話である。それだけなのに、どうしてこんなに面白いのだろうか。伊丹十三監督の卓抜した脚本・演出の妙と、それに応えた俳優陣の素晴らしい演技の賜物以外のなにものでもないなと思う。
初めての葬儀にすったもんだな遺族の姿や、集まった人々の悲喜交々が人間味たっぷりに描かれていて面白かった。親戚からの口出しに「あるある」と頷き、通夜振舞いの切り上げ時のきっかけをどうつくるかなど、思い当たることしかない。
葬儀を扱っているのにきちんとコメディで、5分に1回は笑わせてくれるつくりが楽しい。伊丹作品ならではのどギツい性描写が挿れられたり(千鶴子の漕ぐブランコは強烈なメタファーか?)、 きく江の挨拶に涙させられたり、緩急が巧みだ。
小津安二郎監督作品へのオマージュも感じられたし、適材適所に配された俳優たちがそれぞれ役をモノにして光り輝いていたことにも圧倒される。映画に精通した監督のセンスが詰め込まれた、秀逸なエンターテインメントだなと思った。
誰もが必ず経験する身内のお葬式。私は曾祖母と祖母の葬儀を経験した。いつの日か(悲しくなってしまうので考えたくないが)両親を送らなければならない時がやって来る。両親は葬儀不要と言っているので侘助みたいなことにはならないかもしれないが、良い送り方をしたいと思う。
[余談]
両親が交際し始めた頃にデートで本作を観に行った話を幼い頃から聞かされていた。子供の私が時を超え本作を映画館で観ることになろうとは、なんとも因縁めいたものを感じた次第である。違っているのは、私はひとりで観たと云うところ⋯
[鑑賞記録]
2023/06/03:TOHOシネマズ西宮OS(4K版)
2025/11/23:日本映画専門チャンネル(4K版)
*修正(2025/11/23)

