劇場公開日 1953年3月5日

「高峰秀子」煙突の見える場所 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0高峰秀子

2018年11月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 見る場所によって4本の工場煙突が4本が3本にも2本にも見えるためお化け煙突と呼ばれている。昭和28年当時の世相がわかる序盤。家賃三千円が安くて引っ越すこともできずにいる。隣の家は宗教団体。日中はひっきりなしに「なんみょーほーれんげーきょ」と読経が聞こえてくるのだ。給料が安くて生活が大変苦しい中にも些細な幸福を見出す緒方家だったが、捨て子の存在で大きく変わる。 赤ん坊なんて生んだことがないと主張する弘子。戸籍謄本が二重になっているところもミステリアス。

 よくある赤ん坊騒動の展開なのだが、他人の赤ちゃんを育てることで夫婦愛を描くと同時に戦争被害による命の尊さ・生命力まで考えさせられる。

 中心は上原・田中夫婦の物語なのに、もっとも印象に残るのは下宿人仙子を演じる高峰秀子だ。当時の日本人女性とは違う現代的な娘を演じている。それも戦争によって肉親を失った経験から生きる力を与えてくれるセリフがいっぱい。

 そして、同じく下宿人の芥川比呂志(芥川龍之介の息子)。緒方夫妻のために赤ん坊の父親である塚原を探す努力を惜しまない。しかし、正義感という価値観さえも高峰秀子によって覆させられる。これがまた二人を結婚へと向かわせるという上手いストーリー。ジャンケンによって「愛してる」「信じる」といったことを決めたりするのも面白い。

 シリアスドラマの中にあってコミカルな部分が散りばめられ、映画全体を引き締めているところがすごい。

kossy