江分利満氏の優雅な生活のレビュー・感想・評価
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酔っ払いサラリーマンの人生から覗く「昭和という名の激動と倦怠」
確か岡本喜八が自作で一番気に入っていると発言したことがあったはずで、主演の小林桂樹の間違いなく代表作でもある。そして、原作者の山口瞳の、反骨心を秘めた酔っぱらいのサラリーマンという持ち味もまたみごとに映像化されていて、三位一体、黄金のトライアングルではないかと思う。
一見、一サラリーマンが酒を飲んでクダを巻く、庶民のグチが面白いみたいな映画に見せかけるが、実はこれは日本の昭和史、それも戦中と戦後という時代の隔絶を描いた、ある時代の日本そのものを描いた作品であるとわかる。ただし監督が岡本喜八なので、あの手この手で映像的に遊びまくる。喜八の前衛性と笑いとペーソスが、非常にいいバランスで成立している傑作である。
ただ、人によっては傑作なのか首を傾げるかもしれない。というのも、終盤はそれまでのペースを捨て、ひとりのサラリーマンの悲喜こもごも人生というベースからも逸脱し、本気で若い作中人物二人と観客とを、ヘトヘトにさせ、辟易させ、うんざりさせにかかるからだ。
しかし、一体なにが起こってんだ?というゆがんだ時間の流れから、やはり戦中派である喜八の、山口瞳の、忘れようにも忘れられない戦争の記憶が浮かび上がり、虚を突かれるように感動してしまう。商業監督として非常に攻めた、そしてリスキーなクライマックスであり、映画作家・岡本喜八のひとつの金字塔であると確信している。おそらく喜八の最高傑作。
戦中派‼️
作品の舞台設定である昭和38年で36歳、多分昭和初期生まれの方を戦中派と言うのでしょう‼️そんな戦中派で妻と息子と父と暮らすサラリーマンの主人公が、自らの家庭生活、会社員としての仕事ぶり、そして酒を飲んでは人に絡みまくる人生を、小説に書いて直木賞をもらうまでのお話‼️これだけ聞くとあまり面白くなさそうに思えるのですが、そこは岡本喜八監督、とんでもない手法を用いて観る者を楽しませてくれます‼️父親が事業を衰退させる様をアニメーションで表現したり、新婚時代を下駄と靴だけの合成アニメーションで描いたり、主人公の行動を主人公自身のナレーションで皮肉ったり‼️やりたい放題なのに、とっちらかってる印象はなく、映画として上手くまとまってるのは、さすがは岡本喜八監督‼️主人公の初任給が八千円とか、妻が習ってる唄の稽古料がいくらとか、当時の世相が上手く取り入れられてて、ヒジョーに新鮮で勉強になります‼️小林桂樹さん扮する江分利満氏はホントにだらしない奴なんだけど、そんな主人公が一生懸命生きる姿と日本の戦後史が重ね合わさって、ミョーに共感させられてしまう名作です‼️
堂々たる反戦映画
岡本喜八監督・生誕百年記念上映
サントリーの社員から作家に転じた山口瞳氏の直木賞受賞作を岡本喜八(1924~2005)さんが映画化した作品です。丁度今日が監督の誕生日に当たります。
いざなぎ景気が始まらんとする時代の気楽なサラリーマン暮らしを描写した映画かと思っていたらとんでもありませんでした。後半、学徒出陣映像が挿入されてから「戦没農民兵士の手紙」朗読の長回しまで、この時代人々の心にまだ生々しく残っていた戦争の傷痕を記録に留めんとする熱意に溢れていました。そして、どうしてあの戦争を止められなかったのかと問うて来るのです。原作から完全に逸脱しています。脚本の井手俊郎さんも監督の岡本喜八さんも凄いな!
白髪の老人の妄執に若者は騙されるな
本作は本来は川島雄三監督が撮る予定だったそうです
しかし川島監督は本作公開の5ヵ月前に急死された為、岡本喜八監督に交代されたとの事です
物語はサラリーマンの生態と自己の半生を振り返るものに一見見えます
終盤までそれです
内容も誰しも共感を覚えるものです
しかしそれは監督の計算です
直木賞を獲得して仲間内の祝勝会数軒で飲み歩いた末に、逃げられなかった若手二人を主人公の家に連れ返って飲み直して、明け方の4時までくだを巻くシーンこそ本作のテーマです
そこで主人公は昭和10年の時に学生達は日本の軍国化を止められなかったと言い、
若手二人は60年安保も阻止できなかったというのです
普通のどこにでもいる、おじさんと若手が声を揃えていうのです
白髪の老人に騙されるな!
自分たちの子供を戦争に行かせるのはごめんだ!
そう画面の向こう側から、観ている観客に対して主人公がそのようなアジテーションを行うのです
朝が来て若手二人はそのまま会社に向かいます
主人公も会社に行ったのでしょう
会社の屋上での昼休み
まるでウエストサイドストーリーのような集団ダンスシーンを経てバレーボールなどであそんでいる冒頭のシーンに戻っていくのです
タイトルバックの冒頭シーンにつながって主人公がつまらないとつぶやくシーンになっていきます
ループ状の構造になっているのです
なぜつまらないのか?
60年安保が忘れさられたからなのです
これが本作のテーマなのです
では21世紀の私達にはもはや関係のないテーマだから観る値打ちのない映画なのでしょうか?
違います
その終盤までの日常と半世紀の独創的な演出手法だけでも絶対に観る価値も意義もあります
その部分だけでも素晴らしい映画です
小林桂樹の演技は終盤に向けて白熱していきます
そして肝心のテーマは、半世紀以上を過ぎた今観ると監督の意図とは真逆に聞こえるのです
このような白髪の左翼老人の妄執に若者は騙されるな
そのような見え聞こえるのです
監督の意図した逆の政治的意味合いのメッセージを放っている価値があります
どこにでもいるサラリーマン。ある、ある、と頷いてしまうほどのエピ...
どこにでもいるサラリーマン。ある、ある、と頷いてしまうほどのエピソードと、ちょっと変わった周囲の人々。映像的にも凝った部分があり、アニメ部分(トリスウィスキーのアニメ作家?)あり、靴と草履の会話あり、江分利の周りがストップしたりと、面白い。
酒を飲むと徐々に変貌する男。くだを巻くところが特徴なのだが、本音が出てしまうのか、違う一面が出てしまうのかわからない。エブリーマンというタイトルのつけ方からして、平凡で普通のサラリーマンを描こうとしているのだろうけど、彼の父親(東野)の波乱万丈な人生からしても平凡ではない。何度も事業を起こして成功し、そして破産・・・を繰り返す。戦争成金と満氏からも揶揄されるし、その父を見て育ったからこそ平凡になろうと努力してたのかもしれない。
戦中派サラリーマンの悲哀。破天荒な父親の姿を理解しなければ、この満氏の性格も掴みづらいかもしれない。どちらかというと後輩社員(特に二瓶正也)などが感情移入しやすかったりするのだ。優雅な生活というタイトルもそうだが、戦時中にどんな悲惨なことが起きているのかも大ざっぱにしかつかめていなかったようだ。徴兵制がなくなってしまえばいい!という台詞も強い反戦の意志より、父が戦争で儲けたために何もできなかったことの自責の念があると思われる。ただ、やはり岡本喜八監督の意志が混入されているとも受け止められる・・・
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