「昭和のカルト映画、ミステリー編」江戸川乱歩の陰獣 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
昭和のカルト映画、ミステリー編
東映「緋牡丹博徒シリーズ」などの加藤泰監督が松竹で撮った異色の怪奇スリラー。
知る人のみぞ知るカルト映画だ。
この作品が公開された1977年、松竹は時代背景を現代(制作時)に翻案した天知茂主演のテレビシリーズ「江戸川乱歩の美女シリーズ」を制作し、テレビ朝日がその放送を開始している。かなり自由度が高く斬新な作品群がそこで産み出されるわけだが、本作のオドロオドロしくエロティックな世界観が少なからず引き継がれていて、江戸川乱歩作品のイメージを決定づけた。
徹底したローアングルと大胆に画面を遮蔽する障害物を配置した構図、光と闇を巧みに操り、引きの画と極端なアップ、スローモーション、無音、加藤泰のテクニックのオンパレードだ。直弟子の三村晴彦が監督補を務めている。
そして、前衛的な鏑木創の音楽は観客の不安を煽る雰囲気が抜群なのだ。(「…美女シリーズ」も鏑木創が音楽)
津軽三味線や前衛舞台を織り込んだ意図は不明だが、ストーリーの混沌を増幅させる効果はあったか…。
ヒロインは香山美子。
香山美子といえば「銭形平次」(フジテレビ/大川橋蔵版)の女房お静だ。本作の公開時は、十数年お静を演じたちょうど中間くらいの頃だと思う。毎週テレビで見せていた良妻の顔とは全く違い、主演のあおい輝彦を惑わす妖艶で謎めいた実業家夫人を演じて、大胆に肢体を曝している。
もっとも、映画での香山美子は汚れ役も少なくなかった。加藤泰監督作品には『人生劇場 青春篇 愛欲篇 残侠篇』(’72)、『花と龍 青雲篇 愛憎篇 怒涛篇』(’73)などにも出演していて、何れも体当たりで演じている。
あおい輝彦が演じる主人公の推理小説家・寒川光一郎はトリックを旨とするポリシーから、正体不明の作家・大江春泥が書く怪奇探偵小説を批判している。
江戸川乱歩自身はどっちのつもりだろうか。
大江春泥の正体を探るのがストーリーの中核になっていて、そこで若山富三郎が演じる編集者が活きてくるのだが、女優役の倍賞美津子や誰かの夫人役の野際陽子などは添えもの程度で、ある意味贅沢だ。加賀まりこもチョイ役で。
結局、あおい輝彦が一人で謎解きし、真犯人と一人で対峙するという、解決したのかしなかったのかよく分からない展開で幕を閉じる。
本格推理劇でないことは、確かである。
